中国は、月南極探査ミッション「嫦娥7」の年内打ち上げを見送ると明らかにした。月南極への先行到達を競う米中の探査計画にも影響を及ぼす可能性がある。
米Ars Technicaが23日(現地時間)に報じたところによると、中国の有人宇宙プログラムは同日、「嫦娥7」が年内の打ち上げ予定枠に間に合わないとする短い声明を公表した。
中国側は声明で、「慎重かつ高い信頼性をもって任務を進め、確実な成功を期す原則に基づいて総合的に評価した結果、嫦娥7は打ち上げ条件を満たしておらず、年内の計画された打ち上げ期間内には実施できない」と説明した。
延期の理由は公表していない。嫦娥7は、周回機、着陸機、ローバー、小型の跳躍型探査機で構成される複合ミッションで、海南島の文昌宇宙発射場から長征5号で、早ければ今月23日に打ち上げられる見通しだった。目標は月南極地域としていた。
現時点で有力視されている要因の1つが天候だ。台風「ナラ」が海南島と中国本土の間の海域に停滞し、文昌発射場周辺に悪天候をもたらす可能性が高いとみられているためだ。
米合同台風警報センターは、この暴風が数日にわたって同じ海域にとどまる見通しを示した。そうなれば、今回の月南極向け打ち上げ期間が閉じるまでに天候が回復しない可能性がある。
一方で、直前に技術的な問題が見つかった可能性も否定できない。嫦娥7の搭載機器やロケット側で不具合が検知されたとの見方も出ている。
ただ、中国が直前まで打ち上げ日程を維持していたことから、エンジン問題が直接の原因である可能性は高くないとの観測もある。長征5号は、2週間前に上昇中に失われた長征7AロケットとYF-100エンジン系統を共有している。
打ち上げが来年初めにずれ込むとの見方もある。中国の公式発表はないものの、SNS上では、次に適切な打ち上げ期間が来年2月または3月まで開かない可能性があるとの情報が流れている。
その背景として、極地の着陸地点で必要となる日照条件に加え、着陸前の90日間に月周回軌道から偵察を行う必要があるというミッション計画が挙げられている。
嫦娥7の延期は、月南極探査競争の象徴的な局面と重なる。中国と米国は、月南極で有力な拠点候補地への先行到達を競っており、こうしたロボット探査は、今後2~4年以内に続く可能性がある有人ミッションの前哨戦と位置付けられている。
嫦娥7の目標地域は、実質的に月南極に位置するシャクルトン・クレーター周辺とされ、月面でも特に注目度が高い地域の1つだ。クレーター縁の地形によって永久影、いわゆる「コールドトラップ」が形成され、この区域には氷の形で水やそのほかの有用物質が長期間蓄積している可能性が指摘されてきた。
NASAと中国がそれぞれ描く長期的な月面定着構想でも、月南極の限られた地域が中核とみなされる理由の1つとされる。
現時点で、月の極地への軟着陸に成功した国はない。赤道付近より到達難度が高いためだ。今回の延期によって、米国が先に現地へ到達する可能性も出てきた。
Blue Originの月着陸船「Blue Moon Mark 1」は、NASAの探査機2機を搭載して月南極へ向かう計画だ。
Blue Moonも当初は年内打ち上げを目標としていたが、5月にフロリダ州ケープカナベラルでNew Glennロケットと発射台が静的燃焼試験中に失われ、スケジュールに支障が生じた。
Blue Originはフロリダの発射施設の復旧を急いでおり、年末までのNew Glennの飛行再開を目標に掲げている。
もっとも、嫦娥7が来年2月に打ち上げられ、その後3カ月の月周回偵察を経る場合、月南極への先行到達を巡る競争は2027年前半まで続く可能性が高い。