大統領室でAI政策を統括する「AI未来企画首席」が4カ月にわたり空席となっている。与党・共に民主党の新指導部発足を受け、先送りされてきた後任人事が再び動き出すかに関心が集まっている。AI政策が省庁横断の実行段階に入るなか、調整役不在の長期化を懸念する声も強まっている。
政界とAI業界によると、AI未来企画首席はハ・ジョンウ前首席が4月、釜山・北区甲の国会議員補欠選挙への出馬に伴って退任して以降、空席が続いている。同ポストはイ・ジェミョン政権の発足に合わせて新設され、国家AI戦略など将来アジェンダを統括する役割を担う。
当初は、政権発足から1年の節目や6月の地方選挙前後に後任が決まるとの見方が出ていた。大統領室は6月、政権2年目入りに合わせて広報・疎通、民政、社会の各首席を交代させたが、AI未来企画首席の人事は見送られた。
その後は、Amazon Web Services(AWS)Koreaでスタートアップ・エコシステム統括を務めるイ・ギヒョク氏らの名が後任候補として浮上したものの、実際の任命には至らなかった。足元では目立った観測が出ていない一方、大統領室が別の候補者を探しているとの見方もある。
後任人事への注目が再び高まっているのは、与党内の主要政治日程がひとまず一巡したためだ。共に民主党は17日に定期全国党員大会を開き、新指導部の選出手続きを終えた。
追加改閣の可能性も取り沙汰されており、大統領室が先送りしてきた補佐陣人事をあわせて実施するとの観測も出ている。6月の人事で首席級補佐陣の一部を入れ替えながらも同ポストだけを残しただけに、追加人事の優先対象になる可能性があるとの見方だ。
業界では、政府の主要AI政策が本格的な実行段階に入っている以上、後任人事をこれ以上遅らせるのは難しいとの声が出ている。政府は6月、半導体、ロボット・フィジカルAI、AIデータセンターを柱とする「大韓民国 大跳躍 3大メガプロジェクト」を打ち出した。
科学技術情報通信部の中核施策である「独自AIファウンデーションモデル」プロジェクトも動き始めている。同部は18日、SKテレコム、LG AI研究院、Upstageなど3つの精鋭チームを第3段階評価に進む対象として選定した。
現在の空白は、ペ・ギョンフン副首相兼科学技術情報通信部長官が相当部分を補っているとの見方がある。ペ副首相はイ・ジェミョン大統領の主要な海外歴訪にも同行しており、事実上、AI未来企画首席の役割の一部を代行している格好だ。
さらに、イム・ムニョン前国家AI戦略委員会常任副委員長が5月に補欠選挙への出馬で退いた後は、副委員長ポストも兼務している。
それでも早期の人事を求める声が強いのは、AI政策がもはや単一省庁で完結する領域ではないためだ。メガプロジェクトの推進には、科学技術情報通信部だけでなく、産業通商資源部など関係省庁の連携が欠かせない。
政府が拡大に注力するAIデータセンターでは、電力、立地、産業政策を一体で動かす必要がある。フィジカルAIでも、製造業、ロボット、地域産業政策との連動が求められる。AI人材の確保や労働移行は、教育・雇用政策とも直結する。
こうした複数省庁にまたがる政策の優先順位を整理し、大統領室として調整するのがAI未来企画首席の役割とされる。大統領室の組織図でも、同首席の傘下には国家AI政策秘書官、科学技術研究秘書官、人口政策秘書官、気候環境エネルギー秘書官などが置かれている。
業界が注目しているのは人事の時期だけではない。誰を起用するのかも同じくらい重要だとの見方が強い。政界関係者の1人は「大統領室が企業出身者を中心に候補の絞り込みを進めたと聞いている」としたうえで、「難色を示した人も少なくないと聞く」と話した。
初代首席のハ前首席は、Naver CloudのAI革新センター長出身で、民間AI技術や産業現場に対する理解の深さが強みと評価されていた。一方で現在は、技術的な専門性に加え、省庁間の調整能力や政策執行力まで幅広く備えた人材が必要だとの声が出ている。
政府のAI政策が、モデルやGPUにとどまらず、データセンター、電力、半導体、フィジカルAI、製造AX、地域産業へと広がっているためだ。
民間出身者を起用する場合は、利益相反の管理も課題となる。ハ前首席の在任時には、保有株式と政府のAI事業を巡って利益相反論争が持ち上がったことがある。
後任選定では、AI企業への投資や持ち分関係、前職との利害関係などをより綿密に点検すべきだというのが業界の見方だ。一部では、企業出身の候補者を見つけにくい背景として、土地や株式を含む高位公職就任時の財産公開を敬遠する事情を挙げる声もある。
首席ポストが空席でも、各省庁のAI事業そのものが止まるわけではない。科学技術情報通信部、産業通商資源部、行政安全部などは既存計画に沿って事業を進めている。
ただ、事業規模が拡大し、関与する省庁や企業が増えるほど、重複投資の抑制や、電力、立地、規制を巡る利害調整における大統領室の役割は重みを増す。
AI業界関係者は「いまは、すでに発表されたAI政策を産業現場で実際に機能させる段階に入っている」としたうえで、「後任首席には技術への理解だけでなく、省庁間の調整力と、民間と政府をつなぐ実行力が重要になる」と話した。