スマートウォッチ市場が堅調に拡大する一方で、消費者の一部では、よりシンプルなウェアラブル端末を求める動きが出てきた。背景にあるのは機能不足ではなく、通知や常時接続に対する疲労感だ。
米ITメディアのEngadgetが6月19日(現地時間)に報じたところによると、スマートウォッチはこの10年余りで代表的なウェアラブル機器として定着した。スマートフォンを取り出さずに通知を確認できるほか、健康データを管理できる点が利点とされてきた。
当初は、スマートウォッチによってスマートフォンへの依存を減らせるとの期待もあった。手首で必要な情報だけをすばやく確認し、周囲の環境により意識を向けられるという考え方だ。
だが、利用者の体験は必ずしもそうではなかった。Engadgetは、スマートウォッチがスマートフォンからの解放につながるどころか、かえって通知や情報への反応を増やす装置になったと指摘している。
記事に登場した利用者の1人は、不要な情報や刺激から距離を置きたいと考えていたにもかかわらず、スマートウォッチによってそれらと常につながる状態になったと語った。
問題は機能の少なさではない。スマートウォッチは予定確認、メッセージ通知、健康管理、運動記録など幅広い機能を備える一方、機能が増えるほどスマートフォンに近い使い方になり、利用者の注意を絶えず引きつけるとの見方もある。
こうした傾向は、広がるデジタル疲れとも重なる。若年層を中心に、紙の書籍やアナログレコード、デジタルカメラ、フィルムカメラ、カセットテープが見直されているのも、同じ文脈で捉えられている。
テクノロジーが生活の隅々まで浸透した結果、あえて「つながらない」体験に価値を見いだす消費者が現れ始めたというわけだ。
もっとも、こうした変化はスマートウォッチ市場の縮小を意味するものではない。市場調査会社によれば、スマートウォッチ市場は引き続き成長基調にある。
大半の消費者は、健康管理や利便性を理由にスマートウォッチを選んでおり、関連製品の裾野も広がっている。起きているのは市場の縮小ではなく、消費者ニーズの多様化だ。
その中で注目を集めているのが、必要最小限の機能に絞ったウェアラブル端末だ。スマートウォッチのように多様なアプリや通知機能を前面に出すのではなく、運動記録や健康管理といった中核機能に特化する。
利用者はスマートフォンのようにひっきりなしに反応を求められることなく、必要な健康データを把握できる。
業界では、この流れが今後のウェアラブル市場の新たな方向性になり得るとの見方が出ている。とりわけ近年は、ビッグテック各社がAIを前面に打ち出し、スマートグラスや次世代ウェアラブル市場の拡大を進めているだけに、よりシンプルで接続性の低い機器を好む消費者の存在が注目される。
ウェアラブル機器の競争軸は、単なる機能追加だけではない。利用者が求めているのは多機能さよりも、邪魔されない使い心地である可能性がある。
スマートウォッチ市場が成長を続ける中でも、必要最小限の機能に絞ったウェアラブルが別の需要を取り込む余地は十分にある。