画像=Outer Bioscience。ヒト皮膚組織の維持技術とAI予測モデルを単一のクローズドループ型実験系に統合した点が特徴。

Outer Bioscienceが、術後に廃棄されるヒト皮膚組織をAI開発に活用する研究基盤を構築した。最大30日間にわたり体外で組織を維持し、AIが予測した化学物質を実際のヒト皮膚で検証する。新たな化粧品成分の探索に加え、動物実験の代替技術としても注目を集めそうだ。

米ITメディアTechCrunchが8月22日(現地時間)、同社の取り組みを報じた。Outer Bioscienceは、生きたヒト皮膚組織とAIを組み合わせ、化粧品成分を発掘するクローズドループ型の研究システムを整備したという。

同社はマイケル・ポランスキー氏が2022年に設立した。美容整形などの手術後に廃棄予定となる皮膚組織を、非営利・商業バイオバンクのネットワークを通じて確保している。

皮膚組織そのものを購入するのではなく、実費相当の手数料を支払う方式を採用する。受け取るサンプルからはドナー情報が削除されるとしている。

こうした体制を支えるため、同社は手術後数時間以内に組織を確保・処理できるサプライチェーンを約2年かけて構築してきた。

技術の中核は、確保したヒト皮膚を最大1カ月にわたり生体のまま維持する仕組みにある。自社開発の支援システムで組織に栄養を供給し、代謝によって生じる老廃物を除去する。

ポランスキー氏によると、従来は組織を維持できる期間が数日程度にとどまり、研究も急性毒性の確認に偏りがちだった。これに対し、同社のシステムでは最大30日間の維持が可能だとしている。

同社は、30日経過後の組織でも初日の構造や分子プログラムの相当部分が保たれていると説明する。長期間にわたり生きたヒト組織を観察できるため、物質が皮膚に与える影響をより精緻に把握できるという。

ここにAIを組み合わせる。AIモデルが、特定の皮膚機能を改善する可能性のある未試験の化学物質を予測し、その候補を実際のヒト皮膚組織に適用して検証する。

得られた実験結果は再びAIモデルに戻される。予測が当たった場合も外れた場合も学習データとして取り込み、AI予測、組織での検証、結果の再学習を循環させる仕組みだ。

この手法により、候補物質の探索速度も大きく向上したという。ポランスキー氏は、創業初期に論文調査や天然化合物の探索を中心に進めていた時期には、18カ月かけても見つかる候補はごく少数だったと振り返る。

一方、AI導入後は新たな候補物質を約6週間ごとに創出できるようになった。現在のパイプラインには有力候補が6件あり、加えて数十件の探索結果が蓄積しているという。

当面は医薬品よりも化粧品成分事業に軸足を置く。米食品医薬品局(FDA)の承認が必要となる医薬品開発ではなく、業界標準の名称整備と経済協力開発機構(OECD)ガイドラインに基づく安全性試験を経て、成分を商用化する方針だ。

完成した成分は自社化粧品ブランドで展開するのではなく、ビューティー企業や製薬企業にライセンス供与または販売する計画という。ポランスキー氏は、有力候補6件のうち4件について商用化の可能性が高いとみている。

収益化はすでに始まっている。共同研究を通じて売り上げが発生しており、一部の製薬企業は、特定の抗がん剤が重篤な皮膚発疹を引き起こす要因を調べるため、Outer Bioscienceのデータを活用しているという。

消費財分野のビューティーブランドも、自社製品の開発やマーケティング訴求の根拠を検証する目的で、同社データの活用を進めているとされる。

こうした手法は、動物実験代替技術を巡る競争の面でも関心を集める。実際のヒト組織とAIを組み合わせて新薬や化粧品成分を評価するアプローチが、新たな前臨床研究の手法として台頭しているためだ。

競争環境も厳しさを増している。フィラデルフィアを拠点とする競合のVivodyneは今月、予測AIと実験室で培養したヒト臓器組織を組み合わせた技術を掲げ、累計約8000万ドル(約120億円)を調達したと発表した。

このほか、臓器オンチップや微小生理システムを活用し、前臨床試験市場を狙う企業も相次いでいる。

Outer Bioscienceは、自社が保有するデータが外部に存在しない点を競争力と位置付ける。ポランスキー氏は「インターネット上の情報を集める一般的なAIとは違い、生物学には“かき集められるインターネット”が存在しない」と強調した。

機微な生物学データを扱うことから、現時点ではAI関連の処理もクラウドではなくオンプレミス環境で運用している。

同社はこれまでに約2300万ドル(約34億5000万円)を調達した。初期投資家にはCam Capital、Briter Capital、ポランスキー氏の投資会社Hawktailなどが名を連ねる。従業員数は19人という。

これまで対外的な発信を抑えてきた背景について、同社は蓄積データの存在を挙げる。ポランスキー氏は、研究を非公開のまま続けるのは難しくなっており、今後は公の場で事業を進めていきたいとの意向を示した。

今後の課題は、AIが見いだした有望成分を実際の製品につなげることにある。候補物質の発掘後には、製剤化や量産体制の構築、サプライチェーン整備、安全性検証を担う製品開発機能の強化が次の段階になる見通しだ。

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