米バイオ企業のAxiom Biosciencesが、1次上場先として香港市場を選んだ。米バイオ企業の上場先としてはNasdaqやニューヨーク証券取引所が一般的だが、あえて香港を選択したことで、バイオ業界の資金調達の重心が徐々に変わりつつあるとの見方が広がっている。
CNBCが21日付で報じたところによると、米サンディエゴに本社を置くAxiom Biosciencesは、2027年の香港上場を目指している。あわせて、2029年に米国で2次上場する案も検討しているという。
同社は再生医療と遺伝子医療の治療薬を開発するバイオ企業だ。香港上場を通じてバイオ分野に強い投資家層を取り込み、アジアでの臨床試験や商業化パートナーとの連携拡大につなげる考えだ。
レモ・ムミアイエ=カザール最高経営責任者(CEO)は、科学研究では依然として米国が主導的な立場にある一方、バイオ企業が必要とする大規模資金を受け止める環境は十分ではないとの見方を示した。
同氏は、開発が後期臨床段階に進むほど必要資金は膨らむ一方で、大型投資が可能なベンチャーキャピタルは減少傾向にあると指摘。初期段階から大口投資家を確保できない企業ほど、公開市場での資金調達の重要性が高まると説明した。
Axiom Biosciencesは、香港市場の上場制度にも競争力があるとみている。ムミアイエ=カザール氏は、香港の比較的厳格な上場基準は成熟したバイオ・エコシステムの表れだとしたうえで、足元のバイオ株のパフォーマンスは米国上場企業を上回っていると述べた。
香港のバイオ市場はここに来て存在感を高めている。中国バイオ企業の上場が相次ぐなか、ハンセン・バイオ指数は2025年1月以降、75%超上昇した。一方、同期間のICEバイオテクノロジー指数とNasdaq Biotechnology Indexの上昇率は40〜50%にとどまった。
もっとも、米国資本市場の優位性は依然として大きいとの見方もある。ライフサイエンス分野のプライベートエクイティ、Pontus Capitalの設立パートナーであるダニー・シャン氏は、米国は世界で最も厚みがあり、制度化されたバイオ資本市場を持つと指摘。国際競争力のあるバイオ企業の多くは、なお米国での資金調達を選んでいると話した。
そのうえで同氏は、米国系バイオ企業が1次上場先として香港を選ぶ例はまだ多くないものの、香港はすでに70社超のバイオ上場企業を抱える主要なバイオ金融ハブに成長したと評価した。上場手続きの簡素化など制度面の改善も進み、グローバル企業の関心は高まっているという。
香港市場の相対的に低いバリュエーションも、投資家にとっては魅力になっている。国際法律事務所DLA Piperのパートナー、ジョージ・ウー氏は、Nasdaqより低い評価水準が、将来の上昇余地を見込む海外投資家を引き付けていると分析した。
Axiom Biosciencesの戦略は、アジアを軸とした臨床開発計画とも連動している。同社は韓国のバイオ企業Medinoと、重症脳損傷の新生児向け治療薬を共同開発している。この治療薬は、米食品医薬品局(FDA)から希少小児疾患に関する指定を2件取得した。
韓国では新生児9人を対象とした第1相試験も完了した。今後は、脳卒中の成人患者への適応拡大も検討している。
ムミアイエ=カザール氏は、再生治療の選択肢がない重症脳損傷の領域では、臨床開発のスピードが最重要だと強調し、アジアはその推進に適した環境だと評価した。
今回の判断は、米中のバイオ競争が激しさを増す流れとも重なる。中国は基礎研究への投資拡大や規制改革、海外人材の誘致を通じて、バイオ産業を国家戦略分野として育成している。
低い生産コスト、豊富な研究人材、大規模な患者データに加え、人工知能(AI)を活用した新薬開発力を背景に、国際競争力を急速に高めているとの評価もある。
一方で米国は、基礎科学と基盤技術の分野でなお優位を保っている。6月に公表されたCure Innovation Indexの調査では、中国は臨床開発とサプライチェーンで強みを示したものの、生物医学研究の水準と商業化競争力では米国に及ばなかった。
業界内では、米国が新たな科学的発見を生み出す「0から1」に強く、中国はそれを迅速に事業化する「1から100」で競争力を高めているとの見方が出ている。
このところ米国政府は、中国のバイオ産業に対するけん制を強めている。米商務省はゲノム企業BGIグループの関連機関に輸出制限を課し、米国防総省はWuXi AppTecを中国軍関連企業リストに追加した。WuXi AppTecはこれに反発し、提訴している。
市場では、Axiom Biosciencesの香港上場は単なる上場先の変更ではなく、バイオ業界の資金調達と臨床開発の重心が徐々にアジアへ移りつつあることを示す象徴的な事例になり得るとの分析も出ている。