AI競争の焦点が半導体や輸出規制からモデル自体へ移りつつあることを示した。写真=Shutterstock

米政府が、中国のオープンソースAIモデルによる知的財産権侵害の有無を調査する。侵害が確認されれば、中国AI企業への制裁も辞さない構えだ。対中AI規制の焦点が、先端半導体や輸出規制から、モデル開発手法や知的財産権の問題へ広がる可能性が出てきた。

TechCrunchなどによると、スコット・ベッセント米財務長官は21日(現地時間)、Fox Businessのインタビューで、中国AIモデルが米企業の知的財産を無断で利用したかどうかを精査する考えを示した。

ベッセント長官は、米政府はオープンソースAIそのものに反対しているわけではないと強調した。その上で、「オープンソースモデルは支持するが、知的財産権侵害まで容認するものではない」と述べた。

さらに、中国企業による米企業の技術盗用が確認されれば、米政府にはそれを根拠に制裁を科す権限があるとの認識も示した。

こうした発言の背景には、中国AIモデルの性能向上と世界的な普及の加速がある。足元では、中国のMoonshot AIが公開した「Kimi K3」が注目を集めている。米国では、中国のオープンソースAIモデルがOpenAIやAnthropicといった有力企業の事業基盤を揺るがし、次世代AI開発に向けた資金調達力を損なうとの警戒感が強まっている。

トランプ政権が、中国製オープンソースAIモデルの米国内での利用を全面的に禁止する案を検討しているとの報道も出ている。実際に導入されるかどうかはなお不透明だが、今回の発言は、米国の規制対象がAIチップやデータセンター機器から、モデルそのものへ移る可能性を示した形だ。

米AI企業はこれまでも、海外企業が自社モデルの出力や技術を利用して類似モデルを開発し、それをオープンソースとして公開する可能性があると警告してきた。ホワイトハウスも4月、米AI企業と連携し、こうした技術流出への対応を進める方針を示している。

最大の争点は「モデル蒸留」だ。これは、大規模AIモデルの知識や性能を、より小型で軽量なモデルに移す技術で、開発現場で広く使われている。一方で、競合モデルの出力を使った蒸留が知的財産権侵害に当たるかどうかを巡っては、業界内でも見解が分かれている。

Microsoftの最高経営責任者(CEO)、サティア・ナデラ氏は今月初め、この考え方に疑問を示した。公開データをフェアユースの原則に基づいて学習することは認めながら、学習済みモデルを活用した蒸留だけに別の制限を設けるのは矛盾している、という問題提起だ。

もっとも、米AI企業も学習データと著作権問題と無関係ではない。Anthropicは最近、15億ドル(約2250億円)規模の和解に基づき、作家への補償金支払いに向けた手続きに入れるようになった。裁判所は、AnthropicがAI学習のため、数百万冊の著作権保護された書籍を違法にダウンロードし、保存していたと判断した。

中国AI企業の台頭がモデル蒸留だけで説明できるわけではないとの反論もある。Hugging FaceのCEO、クレム・ドゥランジュ氏は最近のポッドキャストで、蒸留は高性能AIモデル開発を支える技術の一つにすぎず、米企業を含む多くのAI企業が活用していると語った。

同氏は、蒸留だけで高性能モデルを容易に開発できるのであれば、米国内外でも、より多くの高性能なオープンソースモデルがすでに登場しているはずだと指摘した。その上で、中国には優秀なAI研究者が多く、米企業よりも開放的かつ協調的な形で研究を進めていることも競争力の一因だと評価した。

米政府が実際に制裁手続きに踏み切れば、米中AI競争は半導体サプライチェーンや輸出規制を超え、モデルの学習手法と知的財産権を巡る攻防へと広がる見通しだ。今後は、米国が技術盗用と合法的なモデル蒸留をどの基準で線引きするのかが、大きな論点となりそうだ。

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