Galaxy Digitalは、量子コンピュータがビットコインに及ぼす将来的な脅威に備え、最大500万ドルを投じる取り組みを始めた。開発助成や研究支援、諮問委員会の設置を通じ、量子耐性技術の導入準備を後押しする。
Bitcoin Magazineが21日付で報じたところによると、同社は「Bitcoin Quantum Ready Initiative」を立ち上げた。開発者向け助成、研究活動、諮問委員会の新設を一体で進める枠組みだ。
中核となるのは、ビットコインネットワークの将来的なアップグレードに向けた備えを前進させることだ。Galaxy Digitalは、量子耐性トランザクションの提案、ポスト量子署名の導入、ウォレットやカストディアン向けの移行ツール、提案コードに対する正式なセキュリティ監査などを資金面で支援するとしている。
助成金は案件ごとに審査し、進捗段階に応じて支給する方針だ。
同社はこの問題を差し迫った危機ではなく、長期的な技術課題と位置付ける。Galaxy Researchの統括を務めるアレックス・ソン氏は、「量子コンピューティング分野が急速に進展する一方で、ビットコイン開発コミュニティではポスト量子暗号の議論がようやく本格化し始めた」と述べた。
ビットコインの安全性は楕円曲線暗号に依存している。十分に強力な量子コンピュータがショアのアルゴリズムを実行できれば、公開鍵から秘密鍵を導き出せる可能性があり、攻撃者が署名を偽造してウォレット内の資産を奪う恐れがある。
現時点で、その水準に達した量子コンピュータは存在しない。ただ、実現時期の見通しが前倒しされつつあることが、今回の対応の背景にあるという。
とりわけリスクが集中するとみられているのは、古いアドレスや再利用されたアドレスだ。これらは公開鍵が台帳上に露出しているためで、レガシーな公開鍵ベースのアドレスには約170万BTCが保管されていると推計されている。
技術面での対策も徐々に具体化している。市場で検討されているのは、量子耐性アドレス形式への移行と、新たな署名方式の導入だ。
開発者のハンター・ビースト氏が提案したBIP-360には、標準トランザクションで公開鍵が露出しない仕組みが盛り込まれている。この提案は2026年にビットコイン改善提案のリポジトリにマージされ、BTQ Technologiesは量子テストネット上で動作する実装を展開した。
Galaxy Digitalは研究面での取り組みも進める。Galaxy Researchは、投資家や政策担当者、技術コミュニティ向けに、脅威の水準や開発側の対応状況を分析した資料を公表する予定だ。
また、量子諮問委員会を設置し、研究の方向性の策定や助成審査にも関与させる。初代委員には、カルガリー大学教授でQuantum Cityの科学責任者を務めるバリー・サンダース氏、MITのシグラント・クナウス・フェローであるデイミアン・ベルーベ氏、ボストン大学コンピュータサイエンス学科教授のエラン・トロマー氏が参加する。
Galaxy Digitalの創業者兼最高経営責任者(CEO)であるマイク・ノボグラツ氏は、「デジタル資産業界のリーダーとして、量子コンピューティングがビットコインにもたらし得る潜在的な脅威の軽減に取り組む責任がある」とコメントした。
バリー・サンダース氏も、「量子技術の実用化時期は継続的に前倒しされている」と指摘した上で、政府や産業界全体が備えを進める中、ビットコインだけが例外であってはならないとの認識を示した。
もっとも、ビットコインの意思決定構造を踏まえると、実装には時間を要する可能性がある。ネットワークの変更には、設計、レビュー、テスト、配布といった段階を順に踏む必要があるためだ。
こうした構造はガバナンス上の課題になり得るほか、関連する開発者の層も、問題の規模に比べて厚くないとされる。
一方、政策面の環境も動き始めている。Galaxy Researchは、リスクは現実のものとして存在する一方、対応手段の整備も進んでいるとみている。
ドナルド・トランプ米大統領は、米国の量子技術開発を進める大統領令に署名し、連邦政府のポスト量子防御への移行期限を2031年と示した。米国立標準技術研究所(NIST)は2024年に最初のポスト量子標準を確定している。
Galaxy Digitalは、今回の計画には他の資金提供者や利害関係者も参加できるとしている。同じ目標に向けて他社が別枠で資金を拠出することは、競争ではなく支援になるとの立場だ。
ビットコインの量子セキュリティ対策は、個別提案を検討する段階から、開発者や関連組織が準備の速度を引き上げる段階へ移りつつある。