AIのコモディティ化が進む中、これまで市場を主導してきたOpenAIとAnthropicの競争優位が揺らいでいる。米紙Wall Street Journal(WSJ)は、先端AI開発の知見が広く共有され、より安価で実用水準のAIを提供する企業が増えたことで、両社が築いてきた「モート(参入障壁)」が弱まりつつあると報じた。
OpenAIとAnthropicはこれまで、高性能なAIモデルを比較的高価格で提供し、世界のAI市場をけん引してきた。ただ、AIの汎用化が進むにつれ、こうした構図を今後も維持できるかは不透明になっている。
中国では、DeepSeek、Z.ai、Moonshot AIといったスタートアップに加え、Alibabaなど大手テック企業も、OpenAIやAnthropicの最上位モデルに匹敵するAIを低価格で投入している。米国でもMetaやThinking Machines Labなどが新たな競争相手として台頭している。
もっとも、OpenAIとAnthropicが研究開発で再び差を広げる可能性はある。ただ、研究成果や開発手法が外部に広がりやすいAI業界の構造を踏まえると、コモディティ化の流れそのものを止めるのは難しいとの見方が強い。
WSJによると、企業や研究機関のAI研究者は新たな成果を論文として継続的に公表している。中国のAI企業やThinking Machines Labのような新興企業もオープンソースモデルを公開し、モデル開発の工程や学習手法を記した技術レポートを併せて公開しているという。
こうした流れを加速させているのが、「蒸留(distillation)」だ。蒸留は、別のモデルを使ってAIモデルを学習させる手法で、AIの汎用化を後押しする要因とされる。
OpenAIとAnthropicは、中国企業が蒸留を用いて自社データでAIモデルを開発したと批判している。ただ、蒸留そのものは違法ではなく、合法的な用途で広く使われている。AI企業は大規模モデルを活用し、低コストかつ高速に動作する小型モデルを学習させる手法として蒸留を採用している。WSJは、Appleが新たに投入したSiriのAI基盤モデルも、GoogleとAppleの契約に基づき、GoogleのAIモデルを蒸留する形で開発されたと伝えた。
Microsoftのサティア・ナデラCEOは最近、OpenAIやAnthropicとは異なり、蒸留を擁護する姿勢を示して注目を集めた。ナデラ氏はエッセーで、AI企業がインターネット上の情報だけでなく自社の顧客データまで学習に使う一方、他社による蒸留の活用は制限しようとするのは「皮肉だ」と指摘した。
従来のような技術格差を維持しにくくなる中、OpenAIとAnthropicは新たなモートの構築を急いでいる。
OpenAIは収益源の多角化を加速している。300万超の法人顧客を抱える一方、個人ユーザーとの接点を直接持つため、自社ハードウェアの開発にも取り組んでいる。
Anthropicは、できるだけ早い時期の新規株式公開(IPO)を通じて、事業拡大に向けた影響力と資金調達力を高める戦略を描く。
Anthropicは最近、初めて四半期ベースで黒字を達成した。WSJは、IPOによって、より多くの顧客の獲得やデータセンターインフラの確保、新たな収益源の開拓に必要な資金を確保できると報じた。
今後は、十分な電力を確保できるかどうかもAI企業の重要な競争力になるとの見方が出ている。
英オックスフォード大学のエリック・ジャオ教授は、共同執筆した論文で、AI企業にとって今後最も重要な競争力は電力確保能力になると主張した。電力需給が一段と逼迫し、地域社会の反対によってデータセンターの新設や増設も容易ではない中、限られた電力をいかに効率的に使うかが競争の焦点になるとみている。
ジャオ氏は「最先端のAI企業は今後、『ワット当たりAI性能(intelligence per watt)』を巡って競争することになる」と述べた。