ルビジウムが、量子コンピューター時代の戦略資源として注目を集めている。中性原子方式の開発が加速するなか、これまで限定的だった需要が大きく膨らむ可能性が出てきたためだ。
Cryptopolitanは17日、中性原子方式の商用化が進むにつれて、量子コンピューター開発企業に加え、各国政府や防衛産業でもルビジウム確保への関心が高まっていると報じた。供給余力が乏しいなかで、同金属の戦略的価値が一段と増しているとの見方だ。
ルビジウムは希少なアルカリ金属で、専用鉱山から産出される例は少ない。多くは他の鉱物の加工過程で副産物として生産されるため、供給量そのものが限られる。
市場調査会社Market Research Futureによると、世界のルビジウム需要は2025年の7.44トンから2026年に7.79トン、2035年には11.96トンに増える見通しだ。年平均成長率(CAGR)は4.87%としている。
需要拡大を後押ししているのが、中性原子方式の量子コンピューターだ。QuEra Computing、Pasqal、Atom Computingなどは、レーザーでルビジウム87原子を捕捉・冷却し、量子ビットとして利用する技術の開発を進めている。
初期の中性原子方式の量子コンピューターは100量子ビット未満にとどまっていたが、足元では試験機が1000量子ビットを超える水準に達した。QuEra ComputingとPasqalは、2032年までに1万量子ビット超のシステム構築を目標に掲げている。
課題は供給面だ。業界では、商用量子コンピューターが世界で50〜100台規模で導入されるだけでも、年間0.5〜0.8トンのルビジウム追加需要が発生すると試算する。現在の市場規模を踏まえると、無視できない増加幅といえる。
このため量子ハードウェア各社にとっては、研究開発段階を超えて本格商用化を進める前に、長期供給契約を確保できるかが重要な経営課題になりそうだ。
ルビジウムの用途は量子コンピューターにとどまらない。ルビジウム蒸気セルは、量子磁力計や量子重力計、量子鍵配送(QKD)ネットワークにも用いられる。
こうした装置は、地質探査、地下マッピング、セキュア通信、航法システム、潜水艦探知など、産業用途から国防分野まで幅広い活用が見込まれている。
各国政府も量子技術への投資を加速している。米国はNational Quantum Initiativeを通じ、2028年までに12億ドル(約1800億円)を投じる計画だ。欧州連合(EU)も「Quantum Flagship」プログラムに10年間で10億ユーロを配分している。
ドナルド・トランプ米大統領は今年、量子技術を国家の産業・安全保障戦略に組み込む大統領令2件に署名した。1件は量子技術を米国のイノベーションを支える中核技術と位置付け、もう1件は将来の量子コンピューター時代を見据えた暗号体系の保護に焦点を当てた。
米政府は初期市場の形成に向け、直接調達にも踏み出す方針だ。大統領令では、エネルギー省(DOE)に研究用量子システムの初期需要を創出する役割を求め、商務省には先行調達契約の検討も促した。民間企業にとっては、政府が安定した最初の顧客となる構図だ。
企業の投資競争も続いている。Alphabet、Microsoft、IBMは量子コンピューターの研究開発を拡大しており、IonQも上場企業として事業を広げている。米商務省は、量子技術や半導体、希少鉱物、防衛産業の関連企業から、約20億ドル(約3000億円)規模の投資意向を確保したと伝えられている。
欧州でも量子コンピューターの構築が本格化している。オランダのスタートアップQuiX Quantumは、ドイツ航空宇宙研究センター(DLR)に光子ベースの量子コンピューター「Carina」を供給した。報道では、オランダ初の量子コンピューターとして紹介されたという。
量子コンピューター市場はなお立ち上がり段階にあるが、装置性能の向上に加え、政府投資の拡大や量子センシング、セキュリティ分野での応用が進めば、ルビジウムなど希少資源の戦略的重要性はさらに高まる可能性がある。供給基盤の狭い市場だけに、商用量子コンピューターの普及が進んだ局面では、需給のひっ迫が早い段階で表面化するとの見方も出ている。