人工知能(AI)ブームを背景にデータセンター建設が加速する米国で、発電や送配電設備の増強コストを誰が負担するのかを巡る議論が広がっている。設備投資分が家庭向け電気料金に転嫁される可能性を懸念する声がある一方、料金を押し下げる余地があるとの分析もあり、焦点は費用配分のルールに移っている。
オンラインメディアのGigazineは18日(現地時間)、データセンターの増加で必要となる発電、送電、変電設備の費用を、どの需要家にどのような形で配分するかが米国で争点になっていると報じた。
フロリダ大学でエネルギー研究を手がけるシアドア・J・クィリ教授は、データセンターの需要拡大が実際に電力調達コストの上昇につながっていると分析する。根拠として挙げたのが、米東部・中西部の広域電力網を運用するPJMの独立市場監視機関であるMonitoring Analyticsの2025年報告書だ。
同報告書によると、既存および計画中のデータセンター需要がなければ、2025~2026年から2027~2028年にかけて実施された3回の容量市場オークションで、発電事業者の市場収入の増加幅は大きくなかった可能性が高い。データセンター需要に起因するこうしたコスト増は、PJM域内の幅広い需要家に配分され得るという。
論点は、その費用が家庭向け料金にどの程度上乗せされるかにある。料金規制当局は、発電所、送電線、変電所への投資費に加え、燃料費や人件費なども含めた各種コストを、住宅、商業、産業の各部門に配分する。
例えば、ある需要家グループの使用量が供給電力量全体の20%を占めるなら、関連費用の20%を負担させるといった考え方だ。需要家数や特定時間帯の使用量も配分基準になり得る。
データセンター専用の設備であれば、負担主体を特定しやすい。データセンターと近隣の変電所を結ぶ送電線などは、データセンター側が費用を負担すべきだと整理しやすいからだ。
一方で、データセンター向け供給のために変電所を増設したり、新たな発電設備を確保したりする場合、その設備は他の需要家も共同利用する可能性がある。この場合、費用が広く全利用者に配分される余地がある。
クィリ教授はとりわけ、「同時ピーク需要」を基準とする配分方式の限界を指摘する。これは送電網全体の需要が最も高まった瞬間の使用電力に基づいて費用を按分する仕組みだが、データセンターは処理負荷を調整し、その時点だけ消費電力を抑えられるという。
長期投資に伴うリスクも論点だ。電力設備は長期間にわたって使われる一方、計画中のデータセンターがすべて建設されるとは限らない。完成後も想定より使用電力が少なかったり、技術変化で早期に使われなくなったりすれば、データセンター需要を見込んで先行投資した費用が他の需要家に回る可能性がある。
これに対し、反対の見方もある。マンハッタン研究所の上級研究員ショーン・リガン氏は、「データセンターが家庭向け電気料金を押し上げたと断定することはできない」と主張する。
根拠として示したのは、米国電力研究所に所属するアサ・ワートン氏らによる2015~2024年の分析だ。この研究では、現在の電気料金と直接結びつかない1947年の州間高速道路計画を用いて、各州のデータセンター立地可能性を推定した。
分析によると、データセンター向けの電力容量が2倍になると、住宅向け平均小売電気料金は約3.5%低下するという。2019~2024年にデータセンター向け電力容量が160%増えた点を当てはめると、データセンター増加がなかった場合に比べ、住宅向け料金は約6%低かった計算になるとしている。
研究チームは、発電所や送電線、配電網の固定費について、既存設備の余力を活用しながら、より大きな販売電力量に分散できれば、1キロワット時(kWh)当たりの平均コストを下げられる可能性があるとみている。
もっとも、この分析にも条件が付く。研究チームは、将来の電力供給に制約が生じれば、料金引き下げ効果が失われる可能性があると警告した。リガン氏も、データセンター増加に合わせて発電・送電設備の拡充は必要になるとしつつ、新たに必要となる設備費はデータセンター側が負担すべきだとの立場を示した。
制度面の見直しも始まっている。オレゴン州の公益事業委員会は2026年7月、Portland General Electricの料金改定案を承認した。これにより、データセンターなど大口需要家向け料金は平均29.7%上昇し、住宅向け料金は平均1.3%低下する。
大口需要家向けに専用の料金区分を設けることで、データセンター拡大に伴う費用が一般家庭へ転嫁されるのを防げる――。今回の改定は、こうした主張を後押しする事例といえそうだ。
結局のところ、データセンターが電気料金を押し上げるかどうかを左右するのは、電力需要の増加そのものより、増強コストをどう配分するかという制度設計だ。この点が、今回の論争の核心になっている。