ヒューマノイドロボットへの期待が高まる一方で、シリコンバレーの投資家の間では、人間型という設計そのものに懐疑的な見方も広がっている。実用性や電力効率の面から、資金の一部を車輪型ロボットや産業自動化ロボットに振り向ける動きが出ている半面、市場拡大への期待を背景にヒューマノイドへの投資熱も依然強い。
米Business Insiderが7日(米国時間)に報じたところによると、一部のベンチャー投資家は、ヒューマノイドが「汎用性」をうたっていても、実際の産業現場では作業内容に合わせて設計された別の形態のロボットの方が効率的だとみている。
論点の一つは、「人間を前提に設計された世界だからといって、ロボットまで人間型である必要があるのか」という点だ。Bain Capital Venturesのパートナー、アジェイ・アガルワル氏は、ヒューマノイドは実用性よりデモ効果が先行しがちだとして、一部は見栄えを重視した“曲芸”にとどまる可能性があると指摘した。
また、脚で重量のある上半身のバッテリーを支える構造は、消費電力を押し上げ、転倒リスクも高めるとみている。
アガルワル氏は移動手段としての効率性にも疑問を呈した。「人が飛行機に乗り、車を運転するのには理由がある。車輪や翼は歩行より効率的だ」と述べた。こうした見方を背景に、一部の投資家はヒューマノイドではなく、車輪型ロボットや産業用自動化ロボットに資金を投じているという。
実際、投資先の選別も進んでいる。Khosla VenturesとGoogle前CEOのエリック・シュミット氏は先月、頭部と脚部を持たない車輪型の汎用ロボットを公開したGenesis AIに出資した。
Bain Capital Venturesとサラ・グオ氏のConvictionは家庭向けの車輪型ロボットを開発するSunday Roboticsに出資。ニール・メータ氏が設立したインターネット・技術特化の投資会社Greenoaksは、Cruise前CEOのカイル・ボグト氏が設立したThe Bot Companyに資金を投じた。
産業現場向け投資に力を入れてきたEclipseも、ヒューマノイドとは距離を置く。Rivian出身のEclipseパートナー、ジテン・ベル氏は、製造現場の作業の大半は歩行や直立姿勢を必要としないと述べた。
その上で、「より賢明なのは、ヒューマノイドという平均的な形に合わせることではなく、用途に合ったフォームファクターを選ぶことだ」と語った。
投資家のガズワ・カラトバリ氏も同様の見方を示した。ヒューマノイドのデモ映像を見た後、「このロボットは、うちの祖母より食器を食洗機に入れるのが遅かった」と話したという。
カラトバリ氏は、ロボットが人間の空間で働くには人間に似るべきだとする、いわゆる「ヒューマノイドの誤謬」を批判する研究にも参加した。Luxのディナ・シャキル氏とともに、ロボットの身体は遂行すべき作業を基準に設計されるべきだと主張している。
一方で、反論も根強い。ヒューマノイドが実用化されれば、製造、物流、サービス、家庭をまたぐ巨大な物理経済を取り込める可能性があるためだ。Agility Robotics共同創業者のジョナサン・ハースト氏は、人間の労働が依然として選択肢である世界に触れつつ、ヒューマノイドは人の能力を拡張する、疲れを知らないパートナーになり得ると述べている。
資金流入のペースも速い。PitchBookの集計では、昨年ヒューマノイド関連企業が調達した資金は60億ドルを超え、2024年比で300%以上増えた。
Morgan Stanleyは、この市場が2050年に5兆ドル規模に達し、普及台数は10億台に上ると予測している。
企業側も事業化を急ぐ。Hyundai Motor Group傘下のBoston Dynamicsは、2028年に工場へAtlasを投入する計画を進めている。
Agility Roboticsはヒューマノイド「Digit」をAmazon、Toyota、GXOなどの顧客9拠点に配備した。次世代Digitでは、総額3億ドル超の複数年契約も確保したという。
Figure AIは今年、物流・流通センターで配備を始める。1Xは年末までに家庭向けヒューマノイドを1万台以上出荷する計画だ。
中国勢の追い上げも変数になっている。中国政府はヒューマノイドの商用化を後押しする全国規模の訓練プログラムを開始し、地方政府や国有企業に対し、生産やサービスの現場で技術検証を急ぐよう促している。
Omdiaによると、UnitreeやUBTECHなどの中国企業が昨年のヒューマノイド出荷量の約90%を占めた。Unitreeは最大70億ドルの企業価値を目標に、新規株式公開(IPO)の準備を進めている。
結局のところ、鍵を握るのは人間型かどうかではなく用途だ。ハースト氏も、人間を無条件に模倣するアプローチとは一線を画す。
同氏は一部のスタートアップについて、「人のように見えるが、実際にはアニマトロニクスを作っている」と指摘した。その一方で、人が働く空間でロボットに対する需要は続くとして、用途特化型ロボットが増えても、ヒューマノイドが独自の領域を確保する余地はあるとの見方を維持した。