Lunitと韓国科学技術院(KAIST)は、9月9日に予定される特化型AI基盤モデル事業の最終評価を前に、医療・バイオ分野での開発を加速している。Lunitは実証先を9病院に広げて医療現場での有効性検証を進め、KAISTはバイオ特化モデル「K-Fold」の大規模化とサービス化の準備を進める。
特化型AI基盤モデルは、医療、バイオ、製造、金融、国防など特定産業のデータを学習し、その分野向けに最適化したAIモデルを指す。汎用AIの開発を目指す独自AI基盤モデルとは異なり、産業現場への適用に軸足を置く。
科学技術情報通信部(韓国)は昨年、特化型AI基盤モデル第1次事業として医療・バイオ分野を優先募集した。18のコンソーシアムが応募し、LunitとKAISTの各コンソーシアムが選定された。両陣営は昨年11月1日に開発を開始した。
中間評価は今年3月31日に実施された。Lunit、KAISTの両コンソーシアムはいずれも第2段階支援の基準となる70点を上回り、80点以上を獲得。GPU支援の継続対象となった。
◆Lunit、9病院でPoC拡大 医科学AIプラットフォーム構築へ
Lunitコンソーシアムは、医科学分野全体をカバーするAI基盤モデルの開発を目指している。基礎科学研究から新薬開発、臨床試験、診療支援までを視野に入れた基盤モデルの構築が中核だ。
中間評価では、Lunitが開発した160億パラメータ級モデルが、AnthropicのClaude 3.5 Sonnetをはじめとする1000億~1兆規模の大規模モデルと比べ、医学分野の質疑応答の正確性、AI回答の根拠一致性、科学コードの作成・分析に関する一部ベンチマークで高い性能を示した。
現在は、第1段階で確認した基盤モデルの有用性を実際の医療現場で検証する第2段階に入っている。PoCの対象は全国9病院に拡大しており、複数の医療機関でモデルを運用しながら実用性を確かめている。
PoCで蓄積したデータは再学習にも活用し、モデルの高度化を並行して進める。病院で安定運用できる水準まで精度と効率を引き上げることが、当面の焦点となる。
実証は公共・民間の中核機関を軸に進めている。Lunitは、データ量と品質の両面で優位性があるとして、国民健康保険公団とセブランス病院を中心に、モデル高度化に適した環境を整えたとしている。
同社は、これまで提供してきた疾患別の診断サービスを、医療情報システム全体を支えるプラットフォームへ広げる構想も描く。最終的には、全国の医療機関で活用できる基盤モデルを整備し、医療AIサービスを継続的に拡大できるエコシステムの形成を目指す。
Lunit関係者は、これまでX線画像による肺がん検出やマンモグラフィによる乳がん検出などの診断アプリを開発してきたとした上で、今後は対象疾患を広げ、診断から治療方針の決定、治療後の患者管理までをカバーするプラットフォームへ発展させる方針を示した。
課題として挙げるのは、医療従事者からの信頼確保だ。AIへの信頼が積み上がって初めて、実運用につながるためだ。同関係者は「1~2年前までは、医療従事者の間にAIより自分たちの方が正確だという認識があったが、最近は抵抗感なく受け入れる雰囲気が出てきた」と説明。「医療分野は保守的だが、認識が変われば普及のスピードは一段と速まる。正確性と効率性を科学的に立証することが重要だ」と述べた。
◆KAIST、K-Foldを大規模化 商用展開も視野
KAISTコンソーシアムは、バイオ特化型の基盤モデル「K-Fold」を開発している。タンパク質や分子複合体の構造を高精度かつ高速に予測することが狙いで、新薬開発において特定化合物が標的タンパク質と結合しやすいかを事前に選別し、候補物質探索にかかる時間とコストの削減につなげる。
Google DeepMindのAlphaFold3やBoltz2など既存モデルが、蓄積データの統計的パターンへの依存が大きいのに対し、K-Foldはタンパク質内部で起きる物理・化学的相互作用の原理をAIが自ら学習する方式を採る。
コンソーシアムによると、中間評価ではGoogle DeepMindのAlphaFold3に近い精度を確保しつつ、推論速度は最大30倍以上に高めた。
第2段階では、既存の20億パラメータ規模モデルを70億規模へ拡張する。あわせて、新薬開発分野で利用できるサービス型プラットフォームの構築も進める。第1段階がモデル自体の精度と速度を検証する段階だったのに対し、第2段階では、実際の創薬現場で使える形へとスケールアップし、サービス化につなげる考えだ。
研究段階で終わりがちな国策AIモデル開発プロジェクトの課題を踏まえ、商用化策も用意した。
KAISTのスピンオフ企業HITSは、Webベースのプラットフォーム「HyperLab」を通じて、インストール不要で使えるSaaSとしてK-Foldを提供する計画だ。セキュリティ要件が厳しい機関向けには、KAIST発スタートアップのAtolabが、HyperLabを機関内専用サーバーやオンプレミス環境として構築し、提供する。
Merck Life Scienceは、自社のデジタル実験ツールプラットフォームにK-Foldを適用し、世界3万カ所超の研究室で活用できるよう支援する計画だ。KAISTコンソーシアムは、特化型AI基盤モデル事業で開発した国内モデルが海外企業のプラットフォームに実装される点に意義があると説明している。
コンソーシアム関係者は「データが不足しがちな新規薬物複合体でも予測精度を高め、新薬開発で重要となるタンパク質構造変化の予測性能も改善した」とした上で、「K-Foldを基盤とするサービス型創薬プラットフォームの可能性を確認できた点に意味がある」と述べた。