IBMは、トークン化資産やステーブルコイン、中央銀行デジタル通貨(CBDC)が2030年までに実証段階を脱し、決済や資本市場の中核インフラとして定着するとの見方を示した。これに伴い、既存銀行は収益構造や顧客接点の見直しを迫られる可能性がある。
フィンテックメディア「Fintech News Switzerland」が現地時間4日に報じたところによると、IBMは世界の金融サービス業界の経営層500人を対象にした調査と業界分析をもとに、デジタル資産を基盤とする金融システムへの移行シナリオをまとめた報告書を公表した。
報告書では、2030年までに銀行業を変える3つのシナリオを提示した。1つ目は、CBDCが既存のリテール決済を代替するケースだ。
IBMは、CBDCの普及によって政府や中央銀行が資金フローの把握・管理を強化できるほか、給付金などの支給も迅速化するとみる。利用者にとっても、決済コストの低下が期待できるという。
一方、銀行にとっては逆風となる可能性がある。カードネットワークや口座ベースの決済が後退すれば、インターチェンジ収入や預金を原資とする利ざやに加え、取引データを通じた顧客接点も弱まるおそれがあるためだ。
実際、調査対象となった経営層の約3分の1は、CBDCが既存のカード決済網を代替する可能性が高いと回答した。
2つ目は、民間発行のステーブルコインがクロスボーダー決済の主流になるシナリオだ。IBMは、法定通貨や国債を裏付け資産とするステーブルコインが、国際送金・決済の主要な手段になり得るとみている。
即時決済に加え、プログラマブルな金融機能や流動性最適化の仕組みが企業の決済環境を大きく変える可能性があるとした。
その一方で、大企業が独自のステーブルコインを発行する展開も現実味を帯びると分析する。調査では42%が、その可能性を高く見積もった。
こうした動きが進めば、銀行は預金を基盤とする収益と取引手数料収入の減少に直面し、顧客データとの接点も薄れるおそれがある。
IBMは対応策として、トークン化預金や内部業務システムのトークン化を挙げた。銀行はデジタル資産のカストディ、流動性管理、異なるステーブルコイン経済圏をつなぐブリッジの役割を担えると指摘している。
3つ目は、トークン化証券が既存の資本市場インフラを揺るがすケースだ。トークン化証券が発行、取引、決済をブロックチェーン上で直接処理するようになれば、取引所や清算機関、カストディアンを中心とする市場構造が変わる可能性があるとIBMはみる。
リアルタイム取引、自動化されたコンプライアンス対応、小口単位での分割投資といった利点が注目され、従来の金融インフラコストを大幅に引き下げる可能性があるという。
もっとも、リスクもある。ウォレットやスマートコントラクトがサイバー攻撃の標的になり得るほか、規制当局には分散型ネットワーク環境に対応した市場監視や規制枠組みの再構築が求められる。
市場ではすでにトークン化が重要な戦略課題になっているものの、実装のスピードはなお限定的だ。調査対象の26%がトークン化を中核戦略と位置付けた一方、実サービスを稼働中、または導入準備を終えたと答えたのは9%にとどまった。
関連人材の不足も主要な障害として挙げられた。
IBMは2026年を、トークン化への移行が本格化する分岐点とみている。各国での規制整備、ブロックチェーン技術の成熟、パイロット事業の商用化が同時に進んでいるためだ。
報告書では具体例として、米国でのステーブルコイン規制法案を巡る議論、シンガポールのProject Guardian、中国のe-CNY、カンボジアのBakongシステムを挙げた。
市場規模の見通しには機関ごとの差もある。Boston Consulting GroupとADDXは、2030年のトークン化資産の市場規模が最大16兆ドル(約2400兆円)に達し得ると推計した。
一方、McKinseyは暗号資産を除くトークン化市場全体を2兆~4兆ドル(約300兆~600兆円)と、より慎重に見積もっている。
トークン化とデジタル資産の拡大は、もはや単なる技術実験の域を超え、銀行の役割、決済構造、資本市場インフラそのものの再設計を促す局面に入りつつある。