金融サービス業で人工知能(AI)の導入が広く定着しつつあることが分かった。導入率は81%に達したが、収益性や運用効率の改善効果は、導入の有無よりも組織のAI成熟度、技術の高度化、投資規模に左右される傾向が鮮明になった。
6日付のFintech News Switzerlandによると、英ケンブリッジ大学ジャッジ・ビジネススクール傘下のケンブリッジ代替金融センターが、金融業界におけるAI導入の実態に関する調査結果を公表した。
調査は2025年10月から2026年1月にかけて実施され、151地域の金融機関、AIサプライヤー、規制当局など計628組織が回答した。このうち81%が何らかの形でAIを導入しており、40%は活用段階が「拡張」または「変革」に達したと答えた。
調査結果は、金融サービス業が効率化やリスク管理、顧客対応のパーソナライズに向けた中核技術としてAIを取り込みつつあることを示している。
業態別では、フィンテック企業のほうが既存の金融機関よりAI活用の進展が速かった。「変革」段階に達した割合はフィンテックが19%で、既存金融機関の6%を大きく上回った。
一方、既存金融機関は「探索」段階が21%、「試験導入」段階が44%と、初期段階にとどまる割合が高かった。デジタル中心の構造を持つフィンテックに比べ、既存金融機関ではレガシーシステムや複雑なシステム統合、厳格なセキュリティ要件が導入拡大の障害になっているという。
技術別では、従来型の機械学習が最も広く使われていた。導入率は75%で、不正検知や与信審査、マネーロンダリング対策(AML)における異常取引の検知などに活用されている。
生成AIの導入率は71%に達した。エージェント型AIも52%が導入しており、自律取引や動的なポートフォリオ再調整、リアルタイムのリスク低減などへの適用が広がっている。
金融機関内でのAI活用は、まず業務運営やバックオフィス領域に集中している。最も成熟度と普及率が高かった用途はプロセス自動化で、導入率は79%。データ可視化とソフトウェア開発はともに75%だった。
フロントオフィスでは、AIベースの顧客支援が73%で最も高かった。営業や顧客関係管理、顧客接点の強化は67%、マーケティングとパーソナライゼーションは64%だった。
導入効果は、AI活用の成熟度によって明確に分かれた。AI成熟度が高い企業では64%が収益性の改善を挙げたのに対し、成熟度が低い企業では33%にとどまった。フィンテック企業の56%が生産性向上を実感した一方、金融機関は34%だった。
投資規模も成果を左右した。直近会計年度に10万ドル以上を投じた企業の61%が収益改善を確認したのに対し、10万ドル未満の企業では40%だった。
また、自社で構築、または詳細に調整したAIモデルを活用する企業の収益改善率は54%で、汎用製品や外部サプライヤーのソリューションに依存する企業の39%を上回った。調査では、AIの財務効果は単なる導入の有無ではなく、内製化の度合いや投資規模の影響を受けやすいと分析している。
雇用への影響は、現時点では限定的だった。回答者の74%は、過去3年間でAI導入に伴う明確な人員増減はなかったと答えた。
ただ、2030年に向けた見通しでは、人員削減よりも再教育や役割転換に重点が置かれている。25%が人材の再教育・配置転換を見込み、純増を予想する10%を合わせると、35%がAIは職務を変える、または前向きな影響をもたらすと見ている。一方で、4分の1は2030年までに雇用が純減すると予想した。決済分野では21%が大幅な人員減を見込んでおり、最も悲観的な領域とされた。
導入が広がる一方で、ボトルネックも明確になった。最大の課題はデータの可用性と品質で、AIサプライヤーの66%、規制当局の46%、業界回答者の40%が主要な障害として挙げた。サプライヤー側は、顧客企業との協業における最大の難所として、データ品質と完全性を指摘している。
このほか、レガシーシステム、分断された業務環境、データ共有の制約も主要な障害とされた。規制当局は、AI教育と能力強化の不足(48%)、人材不足(47%)、技術・インフラ面の制約(45%)を中核的な課題に挙げた。
こうした状況を踏まえると、金融業界の競争軸は「AIを導入しているか」から「どこまで深く組織に組み込めているか」へ移りつつある。金融機関とフィンテックの差も、その点で広がっているという。
調査は、生成AIとエージェント型AIの普及が進む中で、データ品質の改善と社内の実装能力強化が、実際の収益性や生産性の向上を左右する分かれ目になると結論付けている。