仮想職場を使ったAI学習へのシフトが進んでいる。画像=ChatGPT

AI業界で、学習データを巡る競争の焦点が変わりつつある。チャットボットの応答品質を高めるための評価データから、人間が実際の職場でどう働くかを再現した業務データへと軸足が移っている。米Business Insiderが12日(現地時間)に報じた。

これまで大規模言語モデル(LLM)は、インターネット上のテキストや書籍に加え、人間の評価者がチャットボットの回答品質を判定したデータをもとに性能を高めてきた。こうした手法は会話型AIの高度化を後押しした一方で、数時間から数日に及ぶ複雑な業務を自律的にこなすAIエージェントの実現には限界があった。

このため、多くのテック企業は実際の職場に近いデジタル環境、つまり強化学習環境に注目している。AIエージェントがコーディングや業務ソフトの操作、意思決定、長期タスクの遂行に取り組み、試行錯誤を繰り返しながら学習する仕組みだ。

重視されるのは「良い答えを返したか」ではなく、業務フローを最後まで完遂できたかどうかだ。企業はその結果に応じて報酬信号を与え、モデルを鍛えている。

足元では、こうした流れを示す動きが相次いでいる。Googleは、AIエージェント訓練向けの仮想業務環境を構築するスタートアップMechanizeに対し、15億ドル(約2250億円)超を投資する案を協議していると報じられた。

Mechanizeは「経済の完全自動化」を掲げ、実際の職場で人が担う業務を再現したシミュレーションと評価環境の構築を目指している。まずはソフトウェアエンジニアリング分野から始め、その後は幅広いホワイトカラー業務へ広げる構想だという。

TeslaのCEO、イーロン・マスク氏も、SpaceXの社員から業務活動データを収集し、Grokのモデル改善に活用すると明らかにした。社員をAIの「親」になぞらえ、「モデルが社員の考え方や価値観を受け継ぐことになる」と述べた。

Metaも、社員のキーボード入力やマウス操作、クリック、画面上の文脈などを収集し、AIに人間が実際にコンピュータや業務ソフトを使う手順を学ばせようとしている。

Scale AIも同じ流れにある。同社は「最新のAI訓練プロジェクトのほぼ半分が、コーディング、コンピュータ利用, 企業の業務フローをモデル化した強化学習環境に関連している」と説明した。

Uberは、金融、法務、人事、マーケティング、調達、カスタマーサポートの各部門にAIエンジニアを配置し、社員の実際の業務の進め方を観察したうえで、AIを前提とした業務フローに組み替える「Agentic Pods」プロジェクトを進めている。

AI開発競争の次の主戦場は、より賢いチャットボットの開発にとどまらない。企業は現実の職場をデジタル空間に再現し、その中でAIに現代の業務を成り立たせる無数の判断と行動を反復学習させている。

人間の社員のように働くAIエージェントを育てるための、新たなデータ争奪戦が始まっている。

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