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AIが生産性を押し上げ、最終的には物価の下押し要因になる――。シリコンバレーではそんな見方が広がる一方、現実にはデータセンターなどAIインフラへの巨額投資が先行し、電力や半導体、ソフトウェアの価格を押し上げている。生産性向上の恩恵が広く表れる前にコスト増が進み、米連邦準備制度理事会(Fed)のインフレ対応を難しくしている。

イーロン・マスク氏やOpenAIのサム・アルトマンCEOらは、AIが生産性を高め、コストを引き下げることでデフレにつながる可能性があると語ってきた。

アルトマン氏は「メーターで測れないほど安価な知能が手の届くところに来ている」と発言。マスク氏も、AIとロボティクスが極度の豊かさを生み、コストを引き下げると主張している。

SoftBankのソン・ジョンウィ会長も、価格は40%下がるとの見通しを示し、「不必要に苦労し汗を流す労働は、もはや必要なくなる」と述べた。

だが、12日付の米CNBCによると、企業のAI導入は想定より鈍い一方で、データセンターやAIインフラには数兆ドル規模の資金が流入している。この投資がサプライチェーンのボトルネックを招き、電力や設備の価格を押し上げているという。AIの生産性効果が本格化する前に、コストとインフレ圧力が先に強まっている構図だ。

OpenAIの主任エコノミスト、ロニー・チャタジ氏は、AIが経済に影響を及ぼすには、企業が技術を導入し、実際に価値創出につなげる必要があると指摘した。生産性統計に効果が表れるまでには、なお時間がかかるとの見方を示した。

ゴールドマン・サックス・リサーチは、2026年の米国のAI構築関連設備投資を5810億ドル(約87兆円)、世界全体では最大1兆ドル(約150兆円)と推計した。米国の支出は国内総生産(GDP)の1.8%に相当し、2028年には2.8%まで上昇すると見込んでいる。

一方、米商務省センサス局の調査では、米企業のAI利用率は17〜20%にとどまった。導入率は大企業ほど高かった。

OnePointBFG Wealth Partnersの最高投資責任者(CIO)、ピーター・ブックバー氏は、AIの生産性効果を過去のインターネット普及と比較しつつも、生成AIがインターネットに匹敵するほど経済を押し上げられるかどうかは依然不透明だと指摘した。

企業の現場でも課題は大きい。Lululemonの元最高情報責任者(CIO)、ジュリー・アベリル氏は、AI導入を統括した経験を踏まえ、障害は技術そのものより、大規模組織で人々の行動を変え、AIへの信頼を根付かせるプロセスにあると語った。

企業間のAI活用格差も広がっているという。アベリル氏によると、AIを積極活用する「パワーユーザー」企業では、ユーザー当たりのトークン使用量が平均的な企業の8倍に達した。3カ月前は2倍にすぎなかったという。

さらに、AIに合わせて業務フローや働き方を再設計した企業ほど、より大きな成果を上げていると付け加えた。

経済学者は、こうした自動化しにくい工程の存在に注目している。スタンフォード大学のチャールズ・ジョーンズ教授は、実際の仕事は自動化しやすい業務とそうでない業務が束になって成り立っているため、一部をAIで置き換えても、全体の生産性が想定ほど速く上がらない可能性があると説明した。

同氏は、AIが放射線画像の読影を自動化できても、患者との対話や同僚との協業といった業務は残ると例示した。なお、ジョーンズ氏は現在、Anthropicに在籍するため大学を休職しているという。

Fed内部でも、AIの経済効果を巡る見方は割れている。ケビン・ウォーシュ議長は昨年11月、AIは生産性と米国の競争力を高めるディスインフレ要因になり得ると述べたが、足元では、供給面の効果がいつ、どの程度現れるかを見通すのは難しいとして慎重な姿勢も示している。

ウォーシュ議長は、AIが経済に及ぼす影響をFedが判断する際の参考とするタスクフォースにジョーンズ氏を任命した。ベンチャー投資家のマーク・アンドリーセン氏も同タスクフォースに加わり、AIが生産性や雇用に与える影響を評価しているという。

一方、ミネアポリス連邦準備銀行のニール・カシュカリ総裁は、データセンター向けの巨額投資がインフレに新たな需要要因を加えたと指摘した。米労働統計局の消費者物価指数(CPI)によると、6月までの2年間で米国の家庭用電気料金は10.1%上昇し、総合物価上昇率の6.3%を上回った。

サーバー向けサプライチェーンにも制約が出ている。JPモルガン・チェースは、DRAM価格が年末までに2024年比で400%上昇すると推計した。ソフトウェアやコンピューター関連アクセサリーの価格も、2024年6月以降に22.9%上昇した。

AIが長期的に生産性を高め、物価を押し下げる可能性はなお残る。ただ、現時点で確認できるのは、期待されたデフレ効果ではなく、巨額の投資負担とサプライチェーンのボトルネック、そして電力や設備価格の上昇だ。実際の生産性向上につながるまでには、導入スピード、組織変革、供給制約をどこまで乗り越えられるかが引き続き焦点になる。

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