写真=Apple、TSMC

Appleの次世代モバイルチップとみられる「A20 Pro」で、DRAM不足が後工程のボトルネックになっている。TSMCでは、最終パッケージングに進めないApple Siliconの完成ウェハーが約10億ドル(約1500億円)分滞留しているという。

10日付のTechRadarによると、問題になっているのはチップの生産そのものではなく、パッケージ工程に必要なメモリの確保だ。台湾・台北を拠点とする半導体アナリストのティム・カルパン氏は、A20 ProのTSMC N2プロセスでの生産について、一定の生産量を確保しつつ歩留まりも良好だと説明した。一方で、パッケージ工程に必要なDRAMの調達が追いつかず、出荷段階へ移れないことが足かせになっていると指摘した。

今回の遅れが注目される背景には、Appleがチップの実装構造を見直したことがある。Appleはこれまで10年以上にわたり、iPhone向けプロセッサでインテグレーテッド・ファンアウト型の「InFO」を採用してきた。従来はCPUやGPU、ニューラルエンジンを含むロジックダイを先に製造し、組み立て段階でメモリを実装できたため、メモリが不足してもロジックチップの生産自体は積み上げられた。

これに対し、A20 ProではTSMCの「WMCM」工程が採用されたとみられている。WMCMは、CoWoS系パッケージングをモバイル向けに拡張した方式で、プロセッサとDRAMをウェハーレベルで一体化するのが特徴だ。カルパン氏は、この構造ではTSMCがパッケージを完成させる前提としてメモリを事前に確保する必要があり、後工程で追加実装することはできないと説明する。従来のようにロジックチップだけを先行生産して積み増す対応が取りにくくなる。

Appleがこの構造を選んだ理由も、メモリ性能の引き上げにある。プロセッサとメモリをウェハー段階で近接配置すれば、より大容量のDRAM搭載や低遅延化が見込みやすく、オンデバイスAIの強化に有利とされる。ただ、今回はそのメモリが逆に制約要因になった。対象となるのはLPDDR5Xで、データセンター向けAIインフラの拡大で生産能力が吸収され、スマートフォン向けの供給が逼迫しているという。

現時点で発売自体が大きく遅れる可能性は高くないとの見方もある。カルパン氏によれば、Appleと組立企業は初期需要への対応に一定の自信を示しており、発売日の注文処理にも大きな支障はない見通しだ。ただし、供給遅延の影響で初期供給が絞り込まれる可能性はある。発売直後の販売数量は確保できても、一般販売向け在庫が早い段階で薄くなる懸念がある。

しわ寄せは組立工程にも及びかねない。メインロジックボードの組み立てと最終組み立ては主にFoxconnとBYD Electronicsが担っているが、パッケージ済みプロセッサの引き渡しが遅れれば、生産計画を圧迫する要因になる。メモリ調達が間に合ったとしても、後工程に使える時間は限られる可能性がある。

市場では、発売中止よりも初期供給不足を警戒する見方が強い。想定されるのは、店頭在庫の不足、予約分の早期完売、注文分の配送遅延などだ。Appleは次期iPhoneラインアップ全体で約2億台を出荷する計画とされるが、2025年のiPhone 17シリーズの出荷が2億4500万台を超えた点を踏まえると、供給の乱れを吸収できる余地は大きくない。

メモリ調達の打開策も見えにくい。AppleのLPDDR5X調達網にはMicronを中心に、SK hynixとSamsung Electronicsが含まれるとみられる。中国のメモリメーカー、長鑫存儲(CXMT)との接触も、価格競争力の確保を目的に検討されたが、契約には至らなかったという。既存サプライヤーとの再交渉も成果は限定的で、Appleは市場価格に沿って必要数量を確保せざるを得ない状況にあるようだ。

焦点はチップの生産量そのものではなく、メモリをいつ確保できるか、そしてパッケージ工程をいつ正常化できるかに移っている。A20 Proの前工程は順調とされる一方、新たな実装構造の採用によってLPDDR5Xの供給制約がそのまま後工程の停滞につながる構図が鮮明になった。次期iPhoneの量産・供給ペースは、今後のメモリ調達に大きく左右されそうだ。

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