米証券取引委員会(SEC)が、世界の航空券予約記録10億件超を含むデータベースを利用し、個人の移動情報を追跡していたことが分かった。データには氏名や決済情報、出発地・到着地、便名などが含まれ、特定人物の新たな予約を自動検知するアラート機能も使っていたという。
ブロックチェーン関連メディアのDecryptが6日(現地時間)、報じた。SECが利用していたのは、航空券精算事業者Airlines Reporting Corporation(ARC)が提供する「Travel Intelligence Program」のデータだ。
ARCはAmerican Airlines、Delta Air Lines、United Airlinesが共同保有する企業で、航空会社と旅行会社の間の決済・精算を担う。同プログラムでは、航空会社の予約情報に加え、ExpediaやKayakなどオンライン旅行プラットフォーム経由の予約データも扱っていたという。
公開文書によると、SECの利用は単純な検索にとどまらなかった。監視対象者リストと新規予約データを自動照合する機能を使い、直近24時間の予約を把握できるよう、1日最大25件のアラートを求めていた。
今回の問題で焦点となっているのは、こうした情報取得に裁判所令状や別途の強制手続きが不要だった点だ。政府機関が直接提出を求めるのではなく、民間データブローカーが保有する情報を購入する形でアクセスしていた可能性が指摘されている。
これを受け、金融規制当局の情報収集の範囲を巡る議論も広がっている。SECの本来の役割は、インサイダー取引や相場操縦、投資詐欺などの監視にある。だが今回のデータは、金融活動にとどまらず、移動経路と決済情報を組み合わせて追跡できる性質を持つためだ。
暗号資産利用者を巡っては、取引所アカウントと結び付いた決済手段、ブロックチェーン関連イベントの参加記録、海外渡航情報などが組み合わされれば、個人の活動を広範に分析できるとの懸念も出ている。
今回の論争は、トランプ第2期政権発足後のSECによる暗号資産分野の執行方針の変化とも重なり、注目を集めている。大手暗号資産企業に対する直接的な規制執行では緩和姿勢もみられる一方、民間データ事業者を通じた情報収集は引き続き活用され得るとの見方がある。
批判的な立場からは、これを「データブローカーの抜け穴」とみなす声も上がる。本来の法的手続きでは得にくい情報を、政府機関がデータ購入によって入手できるのであれば、既存の監視の枠組みを実質的に迂回しかねないという主張だ。
ARCのTravel Intelligence Programは、2025年に終了するまで、SECのほか米連邦捜査局(FBI)、内国歳入庁(IRS)、国土安全保障省(DHS)など複数の政府機関にも提供されていたという。公開文書では、データが米国内線だけでなく、国際線の出発便・到着便も含んでいたことが示されている。
ARCは同プログラムの目的について、犯罪抑止と国家安全保障の強化だと説明している。サービスは2001年の米同時多発テロ後に構築され、マネーロンダリングやテロ関連犯罪の追跡に活用できると強調した。マネーロンダリング対策は、暗号資産業界を巡って規制当局が継続的に問題視してきた主要論点の一つでもある。
SECのデータ活用を巡る論争は、今回が初めてではない。Coinbaseを巡る調査の過程でも、SECが利用者情報の確保に強い関心を示していたとの指摘があった。
今回の文書公開を受け、議論の焦点は、SECが情報を保有していたかどうかではなく、どのような手法で個人情報を収集し、活用していたのかへ移りつつある。金融規制当局や捜査機関が民間データ市場を通じて移動情報と決済情報を結び付けられる実態が明らかになったことで、暗号資産投資家に限らず、一般利用者のプライバシーを巡る懸念も改めて強まりそうだ。