SpaceXの上場後初の決算説明会で、イーロン・マスク最高経営責任者(CEO)が売上1兆ドル、Starlink、データセンター、AI、月面工場にまで及ぶ強気の構想を打ち出した。一方、同席した幹部は各事業の見通しをより慎重に説明し、経営トップと実務陣の温度差が鮮明になった。
TechCrunchなどが4日(現地時間)に報じた。説明会では、マスク氏が将来の大型構想を前面に出し、他の経営陣が足元の事業や現実的な見通しを補足するという構図が繰り返された。Teslaでも同様の傾向がみられ、マスク氏が長期ビジョンを語る一方、他の幹部が主力事業の説明に時間を割く場面が多いとされる。
市場の関心を集めたのは売上見通しだ。マスク氏は、社内では売上高1兆ドル(約150兆円)の到達時期を、上場前に示していた目標の2031年から2030年に前倒ししたと明らかにした。2029年に達成する可能性も否定しなかった。
参考までに、WalmartとAmazonの直近会計年度の純売上高はそれぞれ7060億ドル(約105兆9000億円)、7170億ドル(約107兆5500億円)。これに対し、SpaceXの今年上半期の売上高は125億ドル(約1兆8750億円)で、前年同期比54%増だった。
もっとも、マスク氏はこれまでも完全自動運転や有人火星探査を巡って強気のスケジュールを示してきたが、計画通りに進まなかった例は少なくない。2018年には、自身の見通しについて「典型的に楽観的だ」と述べたうえで、「予測したことはたいてい実現するが、時期は正確ではない」と語っていたという。
データセンターを巡っても強気の姿勢は変わらなかった。マスク氏は「データセンターを建てるのはロケット科学ではない」と述べ、ロケット開発の方がはるかに難しいと強調した。さらに、ロケットエンジニアにデータセンター建設を任せるのは「ニューヨーク・ヤンキースがリトルリーグのチームと対戦するようなものだ」と冗談交じりに語り、「些細な問題だ」との認識を示した。
AI開発競争を背景に、Microsoft、Meta、Amazon、Alphabet、Oracleなどはデータセンター整備に数千億ドル規模を投じている。これに伴い、半導体、電力、用水の需要も急増している。
Starlinkについても、マスク氏は一段と強気の見方を示した。帯域幅を大幅に高めた「Starlink V3」衛星の打ち上げ準備を進めていると説明したうえで、SpaceXが事業を展開する国ベースでみれば、10年以内にStarlinkが世界のインターネットの過半を担う可能性があると述べた。
これに対し、グウィン・ショットウェル最高執行責任者(COO)は、V3衛星の追加によってサービス品質を維持しながらより多くの顧客を受け入れられると説明した。今後数年で世界のインターネットトラフィックの相当部分を占めるとの見通しも示したが、表現はマスク氏より抑制的だった。
財務見通しでも同様の差がみられた。ブレット・ジョンセン最高財務責任者(CFO)は、AI企業向けに計算資源を提供する事業を通じ、今年10月からの6カ月分としてクラウドサービス売上67億ドル(約1兆50億円)相当の追加契約を獲得したと公表した。
ジョンセン氏は、Cursor向けを含めれば、年末時点で年換算売上高(ARR)1000億ドル(約15兆円)に到達する見通しだと説明した。ただし、この数値は12月の予想売上を年換算したものだと明確にした。
これに対し、マスク氏は「ARR1000億ドルは、実質的に何もしなくても達成できる水準だ」と発言し、実際の業績はこれを上回る可能性が大きいとの自信を示した。
宇宙開発の長期ビジョンにも話題は及んだ。マスク氏は、SpaceXが「月に工場を建てる」と述べ、建設作業はロボットが担うと説明した。現時点ではSFのように聞こえるかもしれないとしながらも、長期的には宇宙で活用できる知能の規模を地球経済の1000倍、さらに100万倍にまで拡大できると主張した。
AIについては、昨年9月に発売された「Claude 4.5」を高く評価したうえで、来年末には少なくともデジタル領域では、AIにできないことを見つける方が難しくなるとの見方を示した。
Starshipの開発日程を巡っても温度差は続いた。マスク氏は、試作ロケットが来年末までに有人飛行の準備を終える可能性があり、来年の今ごろには1日1回を超える頻度で飛行できる水準に達し得ると述べた。
一方、ショットウェル氏は、現時点では米航空宇宙局(NASA)のアルテミス計画におけるマイルストーン達成に注力していると説明し、「2028年に月面へ人を着陸させることが目標だ」と語った。
ただ、これらの計画はいずれもStarshipの完全再使用技術の実装が前提となる。最大の焦点は、大気圏再突入時に機体を保護する熱遮蔽システムだ。
SpaceXは先月の試験飛行について、改良した熱遮蔽システムで最良の結果を得たと発表している。その一方で、マスク氏は回収作業が完了する前に「熱遮蔽の問題は解決した」と断言したという。
マスク氏は過去にも火星探査や自動運転を巡って強気の工程表を示してきたが、多くは予定通りには実現していない。今回はSpaceXが上場企業である点で意味合いが異なる。上場企業の経営陣による発言は、投資家保護や情報開示責任の対象となり得るためだ。
もっとも、米証券取引委員会(SEC)と司法省が企業制裁の運用を緩和する姿勢を示していることや、SpaceXがテキサス州に法人を置いていることなどを踏まえると、見通しが外れた場合でも投資家が取り得る実効的な対応は限られるとの見方も出ている。