Fordは米国でリン酸鉄リチウム(LFP)電池セルの生産を開始し、普及価格帯の電気自動車(EV)投入に向けた取り組みを本格化した。中国企業が主導してきたLFP電池を米国内で生産し、価格競争力の確保につなげる考えだ。
EVメディアのElectrekが17日(現地時間)に報じたところによると、Fordはミシガン州の「BlueOval Battery Park」で初のLFP電池セルを生産した。2027年に発売予定の3万ドル(約450万円)台の中型電動ピックアップに搭載する計画という。
ジム・ファーリー最高経営責任者(CEO)は同日、同社として初のLFPセルを生産したと発表した。Fordは中国の電池メーカーCATLの技術と製造プロセスをライセンス供与の形で導入し、生産体制を整えた。
今回の立ち上げにより、Fordは米国内で普及車向けLFP電池を生産する初の完成車メーカーとなる。BlueOval Battery Parkでは、同社の次世代EVプラットフォーム「Universal EV(UEV)」をベースとする車両向けに、角形のLFP電池セルを生産する。
最初の搭載車種は、2027年発売の普及価格帯の中型電動ピックアップとなる見通しだ。Fordは、既存のEVより製造コストを抑えながら、効率性と収益性の両立が可能になるとみている。生産したLFP電池は、エネルギー貯蔵システム(ESS)事業にも充てる計画だ。
Fordはこれまでも、米国で低価格EVを拡大するにはLFP電池の生産が不可欠だと強調してきた。リサ・ドレイク プラットフォーム・プログラムおよびEVシステム担当バイスプレジデントは昨年、「真に手頃な価格のEVを実現するため、米国内で角形LFP電池を生産する決定を下した」と説明していた。
LFP電池は、ニッケル・コバルト・マンガン(NCM)系電池に比べてエネルギー密度では劣る一方、低コストで安全性が高いとされる。Fordは、これにより電池コストを引き下げ、車両重量を抑えるとともに、車内空間の使い勝手も高められるとしている。
同社は、新型電動ピックアップについて、Toyota RAV4より広い室内空間を確保し、Tesla Model Yより低い総保有コスト(TCO)を実現できると説明した。EVの大衆化に向け、価格競争力を最優先する姿勢を鮮明にした形だ。
発売に向けた準備も進んでいる。最近では、米ロングビーチ周辺でカモフラージュを施した試作車が公道テストを行う様子が確認された。車両には専用WebページにつながるQRコードも貼られていたという。Fordはこの電動ピックアップをケンタッキー州ルイビルの組立工場で生産し、2027年の発売直後から納車を始める計画だ。
今回の生産開始は、世界の電池サプライチェーン再編の流れとも重なる。LFP電池市場は現在、CATLやBYDなど中国企業が主導している。市場調査会社SNEリサーチによると、昨年の世界EV電池販売量に占めるCATLとBYDの合算シェアは55%を超えた。同年に出荷された正極材495万トンのうち、LFP正極材の比率は約72%に達した。
業界では、Fordの米国産LFP電池生産が、今後の普及価格帯EVを巡る価格競争の重要な転換点になるとの見方が出ている。EVの値下げ競争が本格化するなか、電池コストの削減が収益性を左右するため、米完成車メーカーによるLFP採用はさらに広がる可能性がある。
一方、General Motors(GM)はかつてLFP電池の適用拡大方針を示していたが、足元では戦略を見直しているとされる。Fordが米国でのLFP電池生産を先行させ、普及価格帯EV市場で優位性を確保できるかが注目される。