AIモデル開発各社が、基盤モデルの提供にとどまらず、AIアプリケーション領域への展開を急いでいる。これに伴い、これまで協業関係にあった企業との間で軋轢が生じ始めている。
足元ではAnthropicの動きが焦点となっている。The Informationによると、Anthropicが公開した「Fable5」モデル(Mythosベース)を巡り、顧客が同モデルを自社AIモデルやハードウェア開発に活用した場合、事前通知なしに性能を制限できるとしていたことから、顧客の警戒感が強まったという。
反発を受け、Anthropicは事前に顧客へ通知したうえで性能を制限する方向に方針を修正した。ただ、懸念はなお残っている。
この措置によって、海外の敵対国や競合するAI企業が自社モデルを使って性能を高めることを抑制できる可能性がある一方、開発者がAIアプリケーションを構築するうえで必要となる基礎的な機能まで制約しかねないとの見方も出ている。
こうした不安は突然浮上したものではない。Anthropicが2025年2月にコーディング向けAIツール「Claude Code」を披露して以降、同社が自社アプリ開発を優先し、最先端モデルの一部機能を外部に開放しなくなるのではないかとの懸念が広がってきた。投資家の一部からは、そうした可能性を警戒する声も上がっている。
シリコンバレーの有力VC、Andreessen Horowitzのゼネラルパートナー、マーティン・カサド氏は4月、X(旧Twitter)で「最高性能のAIモデルを最終的に開発企業だけが使うようになるのは時間の問題だ」と指摘した。そのうえで、他社が利用できるのは性能を落とした軽量の蒸留版モデルに限られる可能性があるとの見方を示した。
モデル提供からアプリケーション開発へと事業領域を広げる動きは、Anthropicの提携関係にも影を落としている。
The Informationによると、Anthropicはデザイン生成やソフトウェアアプリの試作支援をうたう「Claude Design」の公開を控えた数週間前、デザインソフトを手がけるCanvaとFigmaに対し、パートナー参加を打診していた。両社は当初、Claude Designを自社製品を補完する存在と受け止めていたが、実際には補完よりも競合色の強い製品だったという。
同メディアは、Claude Designの公開を数日後に控えた段階で、Figmaが交渉から離脱したと報じた。その前後には、Anthropicの最高製品責任者(CPO)であるマイク・クリーガー氏がFigmaの取締役を退任したという。背景には、Anthropicが公開計画を見直し、Claude DesignをFigmaやCanvaの製品とより直接競合する形にしたことがあるとしている。
AnthropicとOpenAIは、自社モデルを基盤にアプリケーション開発を進めており、Microsoftを含むAPI利用企業の大手顧客にとっても競合相手になりかねない。
両社は最近、自らを企業向けAIの中核サプライヤーと位置付け、企業がMicrosoftなど複数のソフトウェアアプリケーションをまたいで事務作業を自動化できるよう支援する動きを加速させている。
構図としては、MicrosoftとGoogleがそれぞれWindows OSと検索という中核プラットフォームを足場にサービス領域を広げ、周辺企業との間に大小の緊張を生んできたケースに近い。
反トラスト問題が当時ほどの水準に達しているわけではないが、2社への力の集中に不快感を抱く利害関係者が増えているのは確かだ。
The Informationは、多くのスタートアップや既存テック企業が、主要なAI供給企業に自社市場を侵食される可能性を意識し、公の場で警戒感を強めていると報じた。Figmaのディラン・フィールドCEOは、Sequoia Capital主催の非公開イベントで、Anthropicについて「Claude Designを巡るコミュニケーションの過程で、一貫して率直ではなかった」と参加者に語ったという。