腸内細菌が、いわゆる「幸せホルモン」として知られるセロトニンを直接合成していることが明らかになった。2種の乳酸菌は単独では反応せず、共存した場合に限ってセロトニン合成が進むことも確認され、特定の菌だけでなく腸内エコシステム全体を整える重要性が改めて浮き彫りになった。
Good菌研究所のキム・ソクジン所長は最近の動画で、この研究成果を紹介した。研究はスウェーデン・ヨーテボリ大学のフレドリック・バクヘド教授の研究チームがまとめ、2025年10月に国際学術誌「Cell Reports」に掲載された。
セロトニンは感情の調節に加え、腸の運動、睡眠リズム、食欲の調整にも関わる。全体の約90%は腸粘膜細胞で作られるとされる。これまでは、腸内細菌が食物繊維を分解して生じる短鎖脂肪酸が腸細胞を刺激し、間接的にセロトニン産生を促すと考えられてきた。
これに対し今回の研究では、腸内細菌そのものがセロトニンを直接合成することを初めて実証した。
研究チームが健康な人の腸内細菌を培養して追跡したところ、乳酸菌の「Limosilactobacillus mucosae」と「Ligilactobacillus lumines」が、セロトニンへの変換反応に関与していることが確認された。
注目されるのは、2菌株をそれぞれ単独で培養した場合にはセロトニンがまったく検出されなかった点だ。セロトニン合成酵素を持つmucosae株は、lumines株と共存して初めて機能するとみられる。
この仕組みは動物実験でも再現された。無菌マウスに2菌株を同時に投与したところ、糞便中のセロトニン濃度が上昇したほか、腸神経細胞の密度が増加し、乱れていた腸管通過時間も正常化した。
今回の研究は、人口の7〜10%が経験するとされる過敏性腸症候群(IBS)の原因解明や治療にも重要な手がかりを与える可能性がある。腹痛や下痢、便秘を伴うIBSは、腸内セロトニンの調節異常と密接に関係しているためだ。
実際にIBS患者の糞便を分析したところ、健康な人に比べてmucosae株の比率が有意に低かった。セロトニンを直接産生する中核的な菌株の不足が、腸の運動異常につながっている可能性を示している。
キム所長は「今回の研究は、マイクロバイオームが個々の菌の優劣ではなく、ひとつの生態系として機能していることを明確に示した」と説明した。その上で「特定の菌にこだわるより、食物繊維や発酵食品を継続的に取り入れ、腸内環境全体を健全に保つことが重要だ。有益菌同士が協調できる環境を整えることが何より大切だ」と述べた。