2026年のFIFA北中米ワールドカップでは、審判判定や戦術分析におけるAI活用が一段と進んでいる。2022年カタール大会で導入され注目を集めた半自動オフサイド判定支援(SAOT)は、今大会でさらに高度化した。加えて、生成AIを活用した試合分析ツール「Football AI Pro」も48の参加国に提供される。
今大会で中心となる技術の1つが、改良版のSAOTだ。競技場に設置した追跡カメラと公式球内のセンサーが収集したデータを基に、オフサイド判定を支援する。スタジアム内の専用カメラ16台が、ボールと選手の位置を毎秒50回超で追跡する仕組みだ。
これらのカメラには、Hawk-Eye Innovationの光学トラッキング技術を採用した。選手とボールの動きをリアルタイムで取得し、プレー場面を3次元で再構成する。
情報伝達の流れも見直した。2022年カタール大会では、SAOTがオフサイドの可能性を検知すると、関連情報はビデオ・アシスタント・レフェリー(VAR)に送られていた。北中米ワールドカップでは、明白なオフサイドと判断した場合、副審に直接通知する運用を導入した。
これにより、副審のフラッグアップを早め、判定に要する時間の短縮を図る。オフサイド後もプレーが続くことで生じ得る選手同士の接触や負傷リスクの軽減にもつなげる考えだ。
◆公式球センサーと3Dアバターで判定精度向上
判定精度の向上では、公式球「トリオンダ」も重要な役割を担う。ボール内部に搭載した慣性計測ユニット(IMU)が、キックの瞬間とボールの動きをリアルタイムで送信する。これを選手位置データと組み合わせることで、パスの瞬間に攻撃側選手がオフサイド位置にいたかどうかを判定する。
このセンサーは、ボールが選手の手や腕に触れたタイミングも検知できる。ハンドの判定やPKの判断にも活用し、ボールの動きや接触時点を加味して判定材料をより精緻にそろえる狙いがある。
各選手を再現した3Dアバターも導入した。FIFAはLenovoと協力し、参加選手の身体をスキャンして実際の体形を反映した3Dアバターを作成した。複数の選手が重なった場面や高速で動く場面でも、特定の選手や身体部位をより正確に識別するために使う。
判定後の中継映像では、実際の選手に近い3Dグラフィックスを表示する。肩やつま先など、どの部位がオフサイドラインを越えたのかを視覚的に示せるようにした。
一方で、大会序盤から技術面の課題も浮上した。スイス対カタールのグループリーグ戦では、スイスがPKを得る場面でオフサイドの疑いが持たれたものの、中継映像にはSAOTの3D判定グラフィックスが表示されなかった。FIFAは、一時的な技術障害によりオンサイドのアニメーションを生成できなかったと説明している。
VARによる判定自体は正常に行われ、判定ライン上でも攻撃側はオンサイドだったという。ただ、判定画面の公開が試合後にずれ込んだことで議論を呼んだ。
◆AIで戦術分析も、自然言語で試合データを活用
AIの活用は審判支援にとどまらない。FIFAとLenovoは、生成AIベースの試合分析ツール「Football AI Pro」を開発し、48の参加国に提供する。従来はFIFAが各代表に試合データの報告書を配布し、それを分析担当者が読み解く形が中心だった。
Football AI Proでは、分析担当者が自然言語で問いかけるだけで、相手チームの戦術や選手の動き、特定の状況で現れた試合パターンを検索できる。例えば、特定の選手がどのエリアでボールを受けることが多いか、相手が攻守の切り替え局面でどのルートを使ったかといった内容を確認し、関連する映像やデータを呼び出せる。
分析結果は、テキスト、映像、グラフ、3D可視化の形式で提供する。FIFAは、専門の分析人員を大規模に確保しにくい国にも同じツールを提供することで、参加国間のデータ活用格差を是正したい考えだ。コーチングスタッフにとっては、大量の試合映像を見直す手間を減らし、必要な場面を素早く確認できるとしている。