米ウォール街の主要証券会社は、Binanceで発生した大規模な資産流出を受けても、暗号資産市場全体の見通しは崩れていないとしている。急落した暗号資産関連株については、押し目買いの好機とみる見方が出ている。
ブロックチェーンメディアのDecryptが10月30日(現地時間)に報じたところによると、Cantor Fitzgerald、TD Cowen、Compass Pointは顧客向けメモで、約63億ドル規模とされる今回の流出が、市場全体の回復基調を断ち切る可能性は低いとの見解を示した。
今回の被害は過去最大級とされる。発覚直後には市場が動揺し、ビットコインは7万7000ドルまで下落した。
ただ、各社は下落の主因をビットコインそのものではなく、Binance固有のセキュリティ問題にあるとみている。TD Cowenのランス・ビタンザは、今回の侵害はビットコインの基盤技術ではなく、Binanceのセキュリティ上の弱点を露呈したものだと指摘。ビットコインや関連上場株を買い増す局面だとの見方を示した。
Cantor Fitzgeraldのラムジー・エルアサルは、業界全体の初動対応の速さに注目した。ステーブルコイン発行体などが盗難資金のうち約30億ドルを凍結しており、内訳はTetherが15億ドル超、Circleが約8億ドル、Rippleが約2億ドルだという。
エルアサルは「弱気相場では買い手に回る」としたうえで、「今回の事態は痛みを伴うが、いまは2022年ではない」と評価した。
Compass Pointのエド・エンゲルとマイケル・ドナー・バンは、Binanceの損失補填能力にも言及した。Binanceは、補填に必要な水準を大きく上回る流動性を確保しているとの見方を示した。
その一方で、顧客補償の過程でステーブルコインの供給に圧力がかかる可能性や、Coinbase、Hyperliquidといった競合が取引の一部を取り込む可能性もあると指摘した。両氏は、ビットコインの7万5000〜7万7000ドルを重要な価格帯として注視している。
証券各社がトークンより株式を有力な投資対象とみる理由も明確だ。Coinbase、Robinhood、Strategyのような規制下の上場企業であれば、暗号資産価格へのエクスポージャーを確保しつつ、今回の流出で浮き彫りになったトークンの直接保有リスクを回避できるためだ。市場心理が落ち着けば、こうした銘柄が先行して戻りを試すとの期待もある。
一方、Moody’s Ratingsはより慎重な見方を示した。デジタル資産担当の副社長、クリスティアーノ・ベントリチェリは、今回の事件について「ホットウォレットに伴う高いサイバーセキュリティリスクを浮き彫りにした」と指摘。大規模な中央集権型仲介機関にリスクが集中する構造も改めて示されたと述べた。
同氏は、最終的な損失額、影響を受けた取引相手の範囲、資産回収の可否、さらに広範な混乱や信認低下につながるかどうかによって、今後の波及度合いは変わると警告した。
Binanceは損失補填に向け、63億4000万ドルを別途確保しており、利用者資産は安全だと発表した。米シークレットサービスと連邦捜査局(FBI)は捜査に着手している。TRMとChainalysisは、今回の攻撃の背後に北朝鮮と関係するハッキング組織「TraderTraitor」がいるとの見方を示した。
今後の焦点は2つある。Binanceが顧客補償を支障なく完了できるかどうか、そして今回の流出がビットコイン相場と暗号資産関連株の反発時期をどこまで遅らせるかだ。現時点でウォール街は、システム全体の崩壊リスクというより、個別取引所におけるセキュリティ事故として捉える見方を強めている。