実在のアイドルとの対話を仮想的に再現するAIチャットボットが注目を集めている。大規模言語モデル(LLM)の応答品質を高めるペルソナ技術に、実在人物の情報や長期記憶を組み合わせることで、会話の精度と没入感を高める取り組みが進んでいる。
業界では、AIスタートアップのMindlogicが開発したファン交流プラットフォーム「BloomingTalk」が、実在アイドルをベースにしたAIチャットサービスとして注目されている。SMエンターテインメント創業者のイ・スマン氏が披露したアイドルグループA2Oのソウル、ライトの両チーム計24人をAIアバター化し、チャットに加え、音声通話やビデオ通話にも対応する。
アプリ開発はMindlogic、AI映像アバターの制作はESTsoftが担当した。会社側によると、両チームの合流後、最初の5日間で会話件数は約100万件に達し、決済額は数千万ウォン規模を記録したという。
実在人物のペルソナを再現するうえで、まず必要になるのが人物特性の収集と分析だ。性格や話し方、嗜好、関心事などを把握し、AIが活用できる形に整理する必要がある。
このため、インタビューやプロフィール、既存メッセージ、動画、音声など、多様な資料が活用される。対象人数が増えるほど、情報収集と分析にかかる時間やコストも膨らむ。
Mindlogicは作業効率を高めるため、AIがアーティスト本人と直接対話し、性格や話し方、最近の関心事などを収集・分析する仕組みを導入した。社内ではこれを「AIインタビュアー」と呼んでおり、既存資料と組み合わせて手作業の負担を減らしている。
次の課題は、集めた情報をAIの応答にどこまで忠実に反映できるかだ。単に口調をまねるだけでは不十分で、アーティストの嗜好や背景知識に沿った回答を生成する必要があるためだ。
同社は、実在するアーティストの情報をAI応答の基準として活用する。公演日程のように随時変わる情報は、マネジメント側が別途反映し、情報の正確性を高めるという。
さらに、ユーザーごとの会話文脈を維持する長期記憶技術も組み合わせる。ペルソナがアーティスト固有の性格や会話スタイルを保つ役割を担うのに対し、長期記憶はファンごとに蓄積された情報を基に、個別最適化した対話を継続するために用いられる。
例えば、ファンが就職活動中だと話していれば、次回の会話で面接結果を尋ねるといった対応が可能になる。逆に、AIが以前の会話内容を忘れたり、誤った情報を持ち出したりすれば、実際のアーティストと交流しているような没入感は損なわれかねない。
焦点になるのは、何を記憶するかを選別しながら、演算コストを抑えることだ。過去の会話を毎回すべてAIに入力すると、処理すべき情報量が増え、コスト負担も大きくなるためだ。
Mindlogicはこれに対して、会話から重要な情報だけを抽出して構造化するアプローチを採った。外部資料を検索して応答を補強する検索拡張生成(RAG)とは異なる発想だとしている。
同社は、ユーザー名や嗜好、職業など会話から抽出した情報をプロフィールとして整理し、システムプロンプトに反映する。会話ログ全体を毎回処理せずに、個人ごとの文脈を維持する狙いだ。
情報の選別では、信頼度にも優先順位を設ける。ユーザーが直接入力した情報と、AIが会話内容から推論した情報を区別し、両者が矛盾する場合は前者を優先する。
これは、AIの誤推論が事実として記憶される問題を抑えるための措置でもある。Mindlogicの関係者は「人の記憶と同じように、AIも重要なこととそうでないことを選んで記憶する」としたうえで、「ユーザーの名前や趣味、職業、好みなど、相手を理解するうえで必要な情報を区分して記憶することで、対話を重ねるほど個別の文脈を反映できる」と説明した。