電池業界で、販売後の管理サービスを強化する動きが広がっている。AIを活用した電池管理システム(BMS)の遠隔診断技術が実用段階に入り、電池をデータに基づいて継続管理できるようになってきたためだ。もっとも、タクシーなど営業用車両を超えて普及させるには、残存価値の算定基準や事故時の責任分担を整理する保険制度の整備が欠かせない。
業界によると、BMSの役割は従来の残量表示中心から、故障予兆の検知や遠隔管理へと広がっている。AIベースの状態推定技術の商用化が進み、電池健全度(SoH)や残存寿命の予測精度も高まっている。
SoHは、電池性能が初期状態からどの程度低下したかを示す指標で、中古電池の価値算定の根拠として活用できる。セル間のばらつきや劣化を事前に検知し、警告する機能も実用化が進んでいる。
電池診断の対象は車載システムにとどまらず、クラウド側での分析活用にも広がる。SNEリサーチによると、車載BMSが記録したデータをクラウドに集約して分析する手法が普及しつつあり、異常の兆候を事前に警告したり、残存寿命に応じて整備時期を設定したりできるようになった。
即時制御は車載BMSが担い、データ分析はクラウドが担うという役割分担も進む。これにより、電気自動車の販売後もメーカーが電池の状態を継続的に把握できる。BMS市場は2035年に176億ドル(約2兆6400億円)へ拡大する見通しだ。
電池メーカー各社は、こうしたデータ活用を販売後サービスとして事業化している。LG Energy Solutionは、電動二輪向けの電池交換サービス「KooRoo」、走行・充電習慣を分析する電池管理サービス「B-Lifecare」、1回の点検で残存寿命を評価する「B.once」、ライフサイクル全体を統合管理するプラットフォーム「B.around」を展開している。
KooRooでは、クラウドBMSを通じて交換用電池の状態をリアルタイムで監視する。同社は、中古の電気自動車を取引する際に電池価値を客観的に証明できるほか、蓄積データは電池サブスクリプション(BaaS)事業の中核資産になるとみている。
完成車メーカーや金融会社も、電池の所有権を事業者側が持つリース型モデルなどで参入を進めている。保険研究院によると、Kiaは2023年7月、Hyundai Capital、Shinhan EZ Insurance、ソウル市タクシー運送事業組合などと、タクシー向け電池サブスクリプションの実証に関する協約を結んだ。
この方式では、車両所有者は電池を除く車両価格を支払い、電池の利用料を毎月負担する。保険研究院は、一般の車両保険に入りにくいタクシーでも、電池専用保険への加入を通じて電池運営コストの負担軽減につながるとしている。
Hyundai MotorとHyundai Capitalも、電池の所有権を車体から切り離したタクシー向け実証を進めている。Hyundai Motor Groupは4月、保証期間が終了した首都圏の法人タクシー5台を対象に、今年上半期中に電池サブスクリプションの実証を進めると明らかにした。
法人タクシーはHyundai Capitalに月額のサブスクリプション料を支払い、電池交換が必要になれば使用中の電池を返却し、Hyundai Capitalが保有する電池を受け取る仕組みだ。法人タクシーは短期間で走行距離が伸びやすく、電池性能の低下や交換需要が早期に表れやすい。
Hyundai Motor Groupは、この実証を通じて運行コスト負担の軽減や車両運行期間の延長効果を検証し、今年下半期には一般顧客向けの実証にも広げる計画だとしている。
制度面では一定の基盤整備も進んでいる。2023年8月の自動車管理法改正で、自動車登録原簿への電池識別番号の記載が義務付けられ、電池を車体と切り離して流通させる基盤が整った。2024年2月にはHyundai Motorが電池交換型車両の製作特例を受けた。
一方で、保険制度は依然として車体と電池を同一人物が所有する構造を前提としており、普及の足かせになっている。電池業界では、補償責任が事業者側に偏る構造を見直す必要があるとの見方が出ている。
BMS導入が加速する背景には、電池損傷の原因を切り分けるための判定材料を確保する狙いもある。損傷が事故によるものか、摩耗によるものかで、補償主体が変わるためだ。
保険研究院は、保険会社とサブスクリプション事業者が、電池価格の算定基準、事故で損傷した廃電池の所有権、修理・交換費用の基準を新たに定める必要があると提言した。事故車両について、サブスクリプション事業者が過大な交換費用を請求しないための基準も必要だとしている。
中国では、電気自動車火災が発生した場合、国家認証を受けた専門機関が原因を判定し、その結果に基づいて保険会社が電池メーカーまたは車両メーカーに補償を請求する仕組みだという。業界関係者は「電池価値の基準が一本化されてこそ、電池サブスクリプションはタクシー向けにとどまらず、一般顧客にも広がる」と話している。