Nvidiaが、AI学習データを手掛けるMurcoreへの出資を検討していることが分かった。実現すればMurcoreの企業価値は200億ドル(約3兆円)規模となる可能性があり、Nvidiaがチップ販売にとどまらず、AI供給網の上流まで関与を強める動きとして注目される。一方で、市場では循環金融を巡る懸念も改めて浮上している。
19日(現地時間)、Cryptopolitanによると、MurcoreはAIモデルの開発に必要な学習データを販売する企業。Nvidia製チップを導入する顧客企業にとって、実サービスで性能を引き出すには学習データの確保が不可欠で、Nvidiaにとっても周辺領域を押さえる意味合いが大きい。今回の資金調達ラウンドは、General Catalystが主導する案が協議されているという。
Murcoreの業績拡大は急速だ。年商は2026年6月時点で20億ドル(約3000億円)を超え、上半期売上高は6億1400万ドル(約921億円)に達した。2025年10月のシリーズC直後には企業価値100億ドル(約1兆5000億円)と評価されており、今回200億ドルに達すれば、9カ月で企業価値が倍増する計算になる。
顧客にはOpenAI、Google、Anthropicが名を連ねる。NvidiaもMurcoreに対価を支払い、オープンソースAIモデル「Nemotron」の開発支援を受けている。今回の出資は、純粋な財務投資にとどまらず、データとチップを一体で押さえる戦略の一環と受け止められている。
これに対し、市場では循環金融を巡る論争も再燃している。循環金融とは、企業が顧客や供給先に出資や融資を行い、その資金が自社製品の購入として戻る構図を指す。売上高が実需に基づくように見えても、実際には自社資金の還流にすぎないのではないかとの見方がある。
国際決済銀行(BIS)は2026年の年次報告書で、循環金融を世界の金融安定を脅かす3大リスクの一つに挙げた。イングランド銀行も、AI投資の拡大ペースは「歴史的に前例のない水準」だと指摘。企業が投資を収益化できなければ、過度な負債調達が信用市場の重荷になり得ると警告している。
Nvidiaはすでに、CoreWeave、Nebius、Nscaleといったクラウド事業者に出資している。これらの企業はNvidiaからの資金をもとに、再びNvidia製チップを購入する構造を持つ。OpenAIも、Nvidia製チップを使うデータセンターの構築に向け、Nvidiaと1000億ドル(約15兆円)規模の契約を結んでおり、一部融資にはNvidiaが保証を付けている。
このほか、Nvidiaは、Apollo、BlackRock、Blackstone、Brookfield、Goldman Sachs、KKRと、最大5000億ドル(約75兆円)規模のAIインフラ向け資金枠も組成した。過去にはチップ関連スタートアップGrokに技術使用の対価を支払った後、3億5000万ドル(約525億円)の資金調達ラウンドに参加したこともある。当時、再編後のGrokの企業価値は35億ドル(約5250億円)と評価され、2025年9月のピーク時から半減していた。
Nvidiaはこれまで、自社戦略は循環金融には当たらないと主張してきた。自社チップは「代替可能な資産」であり、特定顧客の需要が失われても、ほかの買い手に販売できるという立場だ。ただ、Murcoreへの出資が実現すれば、Nvidiaと供給先との利害関係はこれまで以上に直接的になる。
こうした構図は市場指標にも影響を及ぼしている。Nvidia株は下落し、2026年7月にはクレジット・デフォルト・スワップ(CDS)が過去最高を記録した。Murcore出資を巡る議論は、AI供給網拡大戦略の是非に加え、Nvidiaの資金循環と需要創出のあり方を見極める材料にもなりそうだ。