中国は週内にも「嫦娥7号」を打ち上げ、月の南極にあるシャクルトン・クレーターへの着陸を目指す。画像はイメージ(Shutterstock)

中国は早ければ今週日曜日にも、月探査機「嫦娥7号(Chang'e 7)」を打ち上げる。目標は月の南極近くにあるシャクルトン・クレーターだ。着陸に成功すれば、水氷などの資源の有無を直接調べる初の本格探査の一つとなり、米中の月探査競争にも影響を与える可能性がある。Ars Technicaが8月18日に報じた。

嫦娥7号は長征5号ロケットに搭載され、中国沿岸の発射場から打ち上げられる予定だ。約20年に及ぶ中国の月探査計画の中でも、最も複雑なミッションの一つと位置付けられている。

機体は周回機、着陸機、月面探査車、小型のホッピング探査機で構成される。周回機には高解像度カメラなどを搭載する。着陸機の質量は公表されていないが、最近月面着陸に成功したFireflyの「Blue Ghost」など、NASAが支援する探査機より大幅に大型と伝えられている。

最大の注目点は着陸地点だ。シャクルトン・クレーターは月の南極に極めて近く、将来の長期滞在拠点の候補地として有力視されてきた。

月面の大半は過酷な環境だが、南極域、とりわけシャクルトン周辺は有望な地域とみなされている。クレーター内部には太陽光が届かない永久影領域が広がり、いわゆる「コールドトラップ」として、数十億年にわたって水氷や有用物質が蓄積している可能性が指摘されてきたためだ。

米国と中国はいずれも月面での長期滞在拠点を構想しており、月の南極にある限られた地点は戦略的な重要性が高いとみられている。

人類の月探査は1959年、旧ソ連の「ルナ1号」が月面から数千km以内を通過したことを契機に始まった。その後、100回を超える成功と失敗が積み重ねられてきたが、月の南極への着陸はまだ実現していない。

そのため、中国の探査車がこの未踏地域を走行する映像が公開されれば、それ自体が強い象徴性を持つ。ミッションが成功すれば、印象的な映像だけでなく、水の存在や分布に関するより直接的なデータも得られる見通しだ。

この探査の意味は科学面にとどまらない。地政学的なインパクトも大きい。米国では、アポロ11号が約60年前に人類初の月面着陸を達成し、宇宙開発競争を制したという歴史的評価がある。一方で、中国が遅れて有人月着陸を進めていること自体が、当時の米国の達成の大きさを改めて示しているとの見方もある。

ただ、21世紀に入って中国が経済・地政学の両面で台頭し、米国と競う構図が強まる中、宇宙もその主戦場の一つだとみる向きは根強い。この見方に立てば、中国が米国より先に月へ人間を送り込めば、大きな地政学的勝利になり得る。

対外発信の面でも、中国は単に米国に追い付いただけでなく、今世紀の超大国として米国を上回ったと主張する材料に使う可能性がある。

こうした二つの見方のどちらが現実味を帯びるのかを占う最初の試金石が、今月の嫦娥7号ミッションになりそうだ。

影響は米国内の世論や政策論議にも及ぶ可能性がある。米国民の多くは米中の宇宙競争を強く意識していないとされるが、中国の探査車が月の南極を走行する映像が出れば、「なぜ中国にはできてNASAにはできないのか」との議論が強まる可能性がある。

米議会はすでに一部で対応に動いている。今年初めには、NASAの新長官ジャレッド・アイザックマン氏に対し、月計画全般を見直す裁量を認めた。

対象には、Lunar Gateway宇宙ステーション開発の終了や、宇宙発射システム(SLS)ロケットの不要な上段開発の中止が含まれる。成果よりも雇用や事業維持を優先してきたとの批判もあるNASAに対し、議会が従来路線の修正を容認した形だと受け止められている。

アイザックマン氏の課題はなお重い。アルテミス計画を立て直すと同時に、中国の月戦略に対抗しなければならないためだ。

今後の焦点は、中国が嫦娥7号の成功をどう活用するかにもある。複数のシナリオの中でも注目されているのが、探査車の走行区域を根拠に、NASAを事実上排除する立ち入り制限区域を設ける案だ。

これは米国にとって明確な挑発と受け止められかねない。一方で、アルテミス計画への投資拡大や日程前倒しの議論を後押しする契機になる可能性もある。

さらに、アイザックマン氏がNASA改革を進めるうえで政治的な追い風になるとの見方も出ている。これまで中国がNASAより先に月へ復帰しても大きな問題ではないと考えてきた人々に、再考を促す材料になるという分析だ。

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