サトシ・ナカモトが保有するとされる約109万6000BTCについて、24語のシードフレーズを総当たりすれば奪取できるとの見方がX(旧Twitter)で広がっている。これに対し専門家は、数学的にも実際の保管構造の面でも現実的ではないとして否定している。
ブロックチェーンメディアのU.Todayが8月18日(現地時間)に報じたところによると、この保有分の価値は現在の相場水準で704億3000万ドル(約10兆5645億円)に上るとみられる。
議論の発端は、「24個の単語を正しい順番で当てれば700億ドルを手にできる」とする主張だ。一部では“二度とない機会”のように受け止める向きもあったが、研究者は前提そのものが成り立たないと指摘する。
試算では、仮に毎秒1兆通りの組み合わせを生成できる計算能力があったとしても、特定の24語シードフレーズを50%の確率で見つけるまでに約138億年かかる。宇宙の年齢に匹敵する水準で、現実的な攻撃手法とは言い難い。
加えて、サトシのビットコインは、そもそも単一のシードフレーズでアクセスできる形では保管されていない。現在広く使われるBIP-39のニモニック標準は、サトシがプロジェクトを離れた後に登場した仕組みだからだ。
2009〜2010年当時は鍵生成方式が現在と異なっており、サトシのコインは2万2000個超の独立した旧式P2PK(Pay-to-Public-Key)アドレスに分散しているとされる。
このため、攻撃者が狙うべき対象は単一のウォレットではない。多数の鍵やアドレスに個別に対応しなければならず、一括して突破するのは難しい。これらの資産は15年以上動いておらず、わずかな移動でも市場に大きな影響を与える可能性がある。
今回の議論は、暗号技術そのものの安全性にとどまらず、個人資産の保管方法を巡る論点にも広がった。Hashcashの発明者として知られるアダム・バック氏は、ハードウェアウォレット各社がマーケティング主導で数千のアルトコイン対応を進めた結果、かえってセキュリティ設計が弱くなっていると指摘した。
同氏は、多くのアルトコインがビットコインのマルチシグやシュノア署名(Schnorr Signature)のような高度な安全機構を備えていないため、開発側が最も制約の大きい仕様に合わせざるを得なくなると説明した。
その上で、ビットコイン専用機器のように、機能を絞った分離型の設計はこうした脆弱性の抑制につながると強調した。ビットコイン専用のハードウェアウォレットであれば、プロトコル保護に集中でき、外部技術に起因するリスクを利用者に持ち込みにくいという。
今回の論争で改めて浮き彫りになったのは2点だ。1つは、サトシのウォレットを無作為な推測で奪取できるという見方が、数学的な安全性と実際のウォレット構造の両面を取り違えたものだということ。もう1つは、大口保有者のウォレットを巡る議論が、利用者はどの資産をどのような構造で自己保管すべきかという、より広いテーマに波及している点だ。
X上では、「24個のランダムな単語を完璧に当てれば700億ドルを得られるという発想自体が非現実的だ」とする声も出ている。