米電池材料メーカーのAntra Energyは、ケンタッキー州ルイビルで年産25GWh規模の電解質工場の建設に着手した。供給能力は電気自動車(EV)30万台超に相当し、中国依存を抑えた米国内の電池材料サプライチェーン構築を狙う。2028年の稼働を目指す。
TechCrunchが18日(現地時間)に報じた。
今回の投資は、単なる生産能力の増強にとどまらない。米国の電池業界では、中国企業の影響を受けにくい材料調達先の確保が重要課題となっており、Antra Energyもその流れに沿って供給網の内製化・現地化を進める。
共同創業者兼CEOのデイビッド・マキャニック氏は、工場稼働後に米国内の高性能電池メーカー向けに、中国と切り離したサプライチェーンと、FEOC(Foreign Entity of Concern)規制上の懸念がない材料供給体制を提供する方針を示した。
立地面でもルイビルは優位性があるという。マキャニックCEOは、同地から車で12時間圏内に米国の電池生産施設の約70%が入ると説明しており、主要な生産拠点に近いことを顧客開拓につなげたい考えだ。
プロジェクトには連邦政府と州政府の支援も入る。米国エネルギー省は超党派インフラ法に基づき2490万ドルを助成し、インフレ抑制法(IRA)に伴う1840万ドルの投資税額控除も適用される。ケンタッキー州は、常時110人の雇用創出を条件に、230万ドル規模の税制優遇を実施する。
ルイビル工場は、複数種類の電解質を生産できる設計とする。Antra Energyは当初、顧客要件に応じたさまざまな組成の電解質を供給し、将来的には自社の高分子電解質「Proteus」の生産比率を高める方針だ。
Proteusは、既存の電池生産ラインを大きく改修せず導入できる点を特徴とする。立ち上げ初期は他社仕様の電解質配合を生産して顧客の評価を支援し、材料検証が完了した段階でProteusへ切り替える運用を想定している。
同社はProteusを、全固体電池や半固体電池への移行を支える技術と位置付ける。全固体電池は液体電解質の代わりに固体電解質を用いる次世代電池で、エネルギー密度の向上や、安全性の改善が期待される。一方で、大量生産や耐久性、コスト面ではなお課題が残る。
Antra Energyによると、同社の電解質は製造工程で液体のようにセル内部へ流れ込み、電極に浸透した後に固化する。この工程によって、電池内部の構成要素を結び付ける構造を実現できるという。
マキャニックCEOは、この方式で製造したセルは、電解質の組成によっては従来の液体電解質セルに比べて10〜15倍の強度が見込めると説明した。用途としてはEVに加え、ドローンやロボットも想定する。
もっとも、電池材料メーカーが研究開発や小規模生産から大規模量産へ移る過程では、資金や顧客確保の壁に直面するケースが少なくない。Antra Energyは、今回の連邦支援がいわゆる「死の谷」を越える後押しになるとみている。
マキャニックCEOは、大型用途に参入するには量産能力が必要だが、大規模設備を整えるには先に顧客を確保しなければならないと指摘した。そのうえで、米国エネルギー省の支援がこうした構造的な課題の緩和につながるとの見方を示した。
今回の着工は、米電池業界で進む対中依存の見直しと、次世代電池の商用化をにらんだ動きの一環といえる。今後は、2028年の稼働までにどこまで顧客の評価を獲得できるか、新素材を安定して量産できるかが焦点となる。