OpenAIとAnthropicが、先端AIモデルのAPI提供を巡って外部企業との距離を見直しつつある。両社が自社AIアプリの展開を加速する一方、APIを活用してサービスを展開する顧客企業とは競合関係が生じ始めており、安全対策や蒸留対策も加わって、最新モデルへのアクセスを絞る動きが出ている。The Informationが報じた。
同報道によると、2億人超のユーザーを抱えるデザインソフト企業Canvaは8月、投資家向けに2026年の売上高成長率見通しを20%へ引き下げた。
背景の一つとして挙がっているのがOpenAIの動きだ。OpenAIが4月、ポスターなどのデザイン制作を支援する新たな画像モデルを投入して以降、Canvaの一部ユーザーがChatGPTへ流れたと、The Informationは関係者の話として伝えている。
Canvaはこれに対応し、OpenAIとAnthropicの小型モデルやオープンソースモデルへの切り替え、自社モデルの開発を通じてコスト削減を進めている。料金体系についても、従量課金の導入を検討しているという。
Canva共同創業者のクリフ・オブレヒト氏は、「AI導入前は無料ユーザー向けの提供コストは極めて低かったが、導入後は大幅に増え、収益構造が変わった」と説明した。その上で、「いまはAI事業で収益性、あるいは収益化の道筋を示す局面に入っている」と述べた。
こうした構図は、AIサービス企業にとって新たな常態になる可能性がある。MicrosoftがWindowsを基盤にアプリケーション領域へ広げ、Googleも検索の優位性をテコに周辺サービスを拡大してきたように、大手AIモデル企業も自社サービスの裾野を広げていくとの見方が出ている。
サービス事業者の間では、高性能モデルのAPIを使って優れた製品を作れば競争力を維持できるとの期待が根強い。ただ実際には、API経由で先端AIモデルにアクセスできる範囲が狭まる兆候が強まっている。
The Informationはここ数週間、フロンティアAI企業の研究者や最新モデルを使ってサービスを開発する企業の創業者らへの取材を基に、OpenAIとAnthropicが最上位モデルのAPIアクセスを制限したり、用途によって性能を抑えたりする動きを見せていると報じた。こうした対応は両社の自主判断である可能性もあれば、政府の要請を踏まえた可能性もあるという。
報道によれば、トランプ政権は最近、一部モデルがサイバー犯罪者など悪意ある主体に悪用される恐れがあるとして、OpenAIとAnthropicに対し、モデルを一斉公開せず段階的に公開するよう求めている。こうした段階的な公開期間中は、顧客ごとに個別の承認が必要になる。
OpenAIとAnthropicは、APIでモデルを提供した後も、安全上の理由から特定の用途で性能を意図的に制限する可能性がある。The Informationによると、Anthropicは「Fable」モデルで、サイバーセキュリティ関連の作業に対して実際にこうした措置を講じた事例があるという。
Anthropicは「Mythos」ベースの「Fable5」を公開する際、自社AIモデルやハードウェア開発に同モデルを利用する場合は、事前通知なしに性能を制限する可能性があると示した。これが顧客の警戒感を強め、反発を受けた結果、最終的には事前に顧客へ通知した上で性能を制限する方針へ修正したが、懸念は残ったままだ。
AnthropicやOpenAIが、社内プロジェクトにも外部顧客と同じ基準を適用する可能性はある。ただ、実際にそうするかは不透明だ。The Informationは、両社が自社モデルを自社アプリや特定機能に組み込む場合、あえて性能を制限する必要はないとの見方を伝えている。
もっとも、OpenAIとAnthropicがサービス拡大を理由に、主要な収益源であるAPI販売を大きく後退させる可能性は高くない。ただ、新規株式公開(IPO)を見据えて収益性の向上が求められる中、自社AIアプリの戦略的価値が高まっているのは確かだと同報道は指摘する。
また、投資家の一部はすでに開発者に対し、Anthropicが最先端のAI技術を外部開発者には十分開放せず、自社製品に優先的に活用する可能性があると警告しているという。
先端モデルのAPIアクセスが徐々に絞られ得る理由は、競争戦略や安全対策だけではない。もう一つの大きな要因が「蒸留(distillation)」への警戒だ。
蒸留は、高性能モデルの出力を用いて別のモデルを学習させる手法を指す。特に中国のAI企業がこの手法を活用し、米国企業に匹敵する性能のモデルをオープンソースとして相次いで投入しているとされる。
Anthropicは8月、自社AIがもたらし得る潜在的な致命的リスクに関する報告書の中で、蒸留によって作られたモデルが、元モデルの危険な能力を引き継ぎながら十分な安全対策なしに提供されれば、たとえ元モデル側に強力な悪用防止措置があっても、その能力が別モデルへ移転し、社会的なリスクを高める恐れがあると警告した。