暗号資産ハードウェアウォレット大手のLedgerで最高経営責任者(CEO)を務めるパスカル・ゴティエ氏は、暗号資産ウォレットに「完全な安全」は存在せず、利用者の注意だけに依存したセキュリティ対策には限界があるとの認識を示した。相次ぐ業界事例を踏まえ、メーカー側にはミスや欠陥に耐える設計とサプライチェーン管理が求められると訴えた。
ブロックチェーンメディアのU.Todayが17日(現地時間)に報じた。ゴティエ氏は、暗号資産業界がセキュリティを「利用者の責任を増やす」方向で捉えるべきではないと指摘。「完全な安全」は現実には存在しないと述べた。
その上で、ハードウェアウォレットメーカーは、利用者が誤った操作をしても安全性を維持できる仕組みを設計すべきだと主張した。最近相次いで表面化した事例が、その必要性を示しているという。
ゴティエ氏はColdcardを巡る一連の問題について、利用者の注意や自己管理だけで設計上の欠陥を補うことはできないとの考えを示した。
CoinKiteは7月30日、同社のColdcardデバイスの一部で生成されたビットコインウォレットについて、シード生成過程のエントロピーの問題により脆弱になる可能性があると警告した。該当するシードフレーズは、すでに漏えいしたものとみなすべきだとしている。
この問題による損失は、7月31日までに1000BTCを超えた。
その後、Galaxy Researchは8月4日、7300のアドレスから盗まれた1596BTCを確認したと公表した。ゴティエ氏は、こうした事例は利用者に一層の注意を求めるだけではセキュリティ問題を防ぎにくいことを示していると指摘した。
ハードウェアウォレットは自己保管の中核を担う手段であるだけに、設計段階から利用者のミスに耐えられる構造が必要だという。
論点はColdcardにとどまらない。Trezorは8月13日、第三者の注文処理事業者で発生した侵害事故により、7カ国の1万3689人分の顧客データが流出したと開示した。
ウォレット自体の鍵管理の問題とは性質が異なるものの、ハードウェアウォレットを取り巻くエコシステム全体への信頼を揺るがしかねない出来事として受け止められた。
ゴティエ氏は、自己保管を一般に広げるには、一般ユーザーがあらゆる技術的な不具合の可能性まで理解していることを前提にすべきではないと述べた。想定されるすべての不具合パターンを利用者が把握しなければ成り立たない構造では、自己保管の普及は限定的にならざるを得ないとの見方だ。
また、メーカーによる安全性の主張を無条件に受け入れるべきではないともくぎを刺した。ゴティエ氏は「当社製品を含め、誰の設計であっても、言葉だけで信頼し受け入れるべきではない」と記した。
セキュリティは一度作って終わりの成果物ではなく、継続的な検証と改善のプロセスとして捉えるべきだとも強調した。
今回の発言は、相次ぐ事故を受けてハードウェアウォレット業界がどう信頼を回復するかという論点とも重なる。自己保管への需要が維持されるとしても、メーカーには製品設計、サプライチェーン管理、事故後の告知体制まで含めて一体的に見直すことが求められている。
セキュリティ競争の焦点も、機能追加そのものではなく、ミスや欠陥にどこまで耐えられる構造を作り込めるかへ移りつつある。