人工黒鉛のイメージ(写真=Kamal Enterprise)

米国の先端製造生産税額控除(45X)の適用要件が強化されるのを受け、韓国の負極材業界が人工黒鉛の内製化を前倒ししている。中国産黒鉛に大きく依存する調達構造の見直しが避けられなくなっているためだ。一方で、長期供給契約の開始時期と新工場の量産立ち上げにはなおずれがあり、過渡期の供給体制が課題として残る。

業界によると、中国産負極材の韓国向け輸入価格は下落が続いている。産業通商資源部の集計では、7月の負極材輸入単価は1キログラム当たり3.8ドル(約570円)と前年同月比20.0%下落した。天然黒鉛の輸入単価も同1.4ドル(約210円)で、12.0%低下した。

この2年間、米中は黒鉛を巡って輸出規制と高関税で応酬してきたが、韓国が輸入する中国産原料の価格はむしろ下がった格好だ。

米国際貿易委員会(ITC)は3月、中国産の活性負極材(AAM)について、米国内産業の設立を実質的に阻害していないとの判断を示した。これを受け、米商務省は反ダンピング関税と相殺関税の発動を見送った。

商務省が2月に確定していた反ダンピング関税93.5%、相殺関税66.82~66.86%、中国全域向け反ダンピング関税102.72%は効力を持たなくなり、関税で米国内の負極材生産基盤を保護する構想は最終段階で頓挫した。

その結果、実効的な制約として残ったのが税額控除の適用要件だ。米財務省と内国歳入庁(IRS)は2月、Notice 2026-15を公表し、45X税額控除における「禁止外国機関」に関する算定方式を示した。

バッテリー部品が税額控除の対象となるには、直接材料費のうち、中国など禁止外国機関に帰属しない比率が2026年に60%以上である必要がある。この比率は毎年5ポイントずつ引き上げられ、2030年には85%となる。中国産負極材を使うセルメーカーは、関税負担を避けられても、税額控除の適用資格を失う可能性がある。

産業通商資源部によると、2024年時点で韓国の天然黒鉛輸入の97.6%、人工黒鉛の98.8%が中国産だった。前駆体は94.1%、水酸化ニッケルは96.4%に達している。

45Xの要件をそのまま当てはめれば、韓国内で生産した負極材であっても、原料段階で基準未達とみなされる可能性がある。北米にセル工場を持つ韓国の電池大手3社が調達先の切り替えを迫られている背景はここにある。

負極材はバッテリー原価の約10%を占める主要材料だ。天然黒鉛負極材は、鉱石から採掘した黒鉛を球状化して製造する。人工黒鉛負極材は、石炭や石油由来のコークスとピッチを高温で黒鉛化して作る。

人工黒鉛は、黒鉛化工程にかかる電力コストが採算を大きく左右する。安価な石炭と水力発電を活用できる中国が、これまでコスト面で優位を保ってきた。

ユジン投資証券によると、中国商務部は米国の半導体規制への対応として、ガリウム、ゲルマニウム、アンチモン、超硬材料の対米輸出を禁止した。黒鉛については最終使用者の厳格審査の対象に指定しており、人工黒鉛とその製品、天然の鱗状黒鉛とその製品が含まれる。

中国が輸出規制を強め、米国が税制面で原材料の帰属を厳しく問うようになったことで、韓国業界の選択肢は中国を経由しない独自供給網の構築へと絞られつつある。

すでに受注は動き始めている。Posco Future Mは3月、グローバル自動車メーカーと人工黒鉛負極材の長期供給契約を結んだ。契約額は約1兆149億ウォン、期間は2027~2032年で、2011年の負極材事業参入以来で最大という。2025年10月に締結した約6710億ウォンの天然黒鉛契約とあわせて受注した。

ただ、足元の業績にはまだ反映されていない。Posco Future Mの2026年4~6月期は、負極材部門の売上高が全社売上高の4%を占めた。人工黒鉛は出荷がないまま、固定費負担が先行した。天然黒鉛製品は前四半期並みの出荷量を維持したものの、小幅な赤字を計上した。ハナ証券は7~9月期も負極材部門の赤字が続くとみている。

受注と出荷の間に生じるギャップは、設備投資の日程に起因する。人工黒鉛の契約物量の出荷が始まるのは2027年だが、対応するベトナム工場は2028年の量産開始を目標としている。Posco Future Mは約3570億ウォンを投じ、2026年下期にベトナム・タイグエン省ソンコン2工業団地で第1段階工場の建設に着手する。

同社は4月、タイグエン省から投資登録証(IRC)を受け取り、承認手続きを終えた。追加受注分については第2段階投資で対応する方針だ。2027年分の物量は、年産8000トン規模の浦項ラインで対応する。

天然黒鉛の原料ラインでも、2027年が節目となる。子会社Future Graphが約4400億ウォンを投じてセマングム国家産業団地に建設している球状黒鉛工場は、2027年から年3万7000トンを生産し、世宗工場に供給する計画だ。天然黒鉛負極材3万3000トンを製造できる量に相当する。世宗工場の天然黒鉛負極材の生産能力は現在、年7万4000トンとなっている。

原料調達は2系統に分かれる。Posco Future Mによると、人工黒鉛負極材には、Poscoの製鉄工程で発生するコールタールを活用した石炭系・石油系コークスを使用する。天然黒鉛はPoscoグループを通じ、アフリカなどから原鉱を調達する。

ユジン投資証券によると、Poscoグループ各社は、タンザニアのマヘンゲ鉱山の権益84%を保有するBlack Rock Miningに19.9%を出資した。同鉱山の天然黒鉛埋蔵量は6960万トンとされる。原鉱から球状黒鉛、負極材に至るまで中国を介さないルートの構築は、セマングム工場の稼働によって完成に近づく構図だ。

もっとも、設備建設が進む間にも中国産の輸入は増えている。ハナ証券の集計では、7月の負極材輸入量は1000トンと前年同月比9.3%増えた。一方、輸入額は313万ドル(約4億6950万円)で12.6%減少した。数量は増え、単価は下がったことになる。

1キログラム当たり3.8ドルまで下がった中国産価格は、韓国のセルメーカーが調達先を切り替える動機をさらに弱めている。

供給網の転換スケジュールと市場の実勢がかみ合わない期間は、少なくとも1年半に及ぶ見通しだ。人工黒鉛の契約物量の出荷開始は2027年、ベトナム工場の量産は2028年となるためだ。

この間、韓国内で人工黒鉛を生産できる設備は年産8000トン規模の浦項ラインに限られ、2026年4~6月期はこのラインでも出荷がなかった。米国の「禁止外国機関」要件が60%から毎年5ポイントずつ引き上げられるスケジュールを踏まえると、要件強化のスピードが韓国勢の設備立ち上がりを上回る格好となる。

今後3年の重要性は一段と高まりそうだ。ハナ証券は、バッテリー産業の成長ドライバーとして、ESS、鉱物の垂直統合、次世代素材を挙げた。人工黒鉛の内製化は鉱物の垂直統合に、2028年量産を目標とするシリコン負極材は次世代素材にそれぞれ当たるとしている。

業界関係者は「受注によって方向性は定まった。残る焦点は、2027年の契約開始までに韓国内設備の稼働率をどこまで引き上げられるかだ」と話した。

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