プロダクトデザイナーのマキシム・キッチ氏がこのほどMediumに寄稿し、現在のAIインターフェースは根本から見直す必要があると問題提起した。AIモデルの能力は大きく進化した一方、ユーザーが接する画面は依然としてチャット中心にとどまっており、文脈の維持や思考の整理に適していないという指摘だ。
キッチ氏は、言語学と心理学を学んだ後にデザイン分野へ転じた経歴を持つ。
同氏によると、AIはすでに複数の対話の流れを結び付け、過去の仮説を保持し、人がまだ言語化し切れていない思考まで拾い上げられる水準に達している。にもかかわらず、その知能は2015年ごろのメッセンジャーを思わせるチャット画面の中に押し込められているという。
キッチ氏は「会話が長くなるほどスクロールバーは短くなり、優れたアイデアはツールの呼び出しや出力の山に埋もれてしまう」と述べた。
さらに同氏は、チャットはコミュニケーションそのものの構造ではなく、コミュニケーションを時系列に並べた結果にすぎないとみる。人は一度に1つの発話しかできないが、思考そのものは必ずしも直線的ではないという立場だ。
その根拠として、2024年に学術誌「Nature」に掲載されたフェドレンコ研究チームの論文を挙げた。キッチ氏は「言語と思考は同一ではない。文章は順番に現れるが、そこで扱われる思考は空間的であり、同時多発的でもあり得る」と説明している。
こうした考え方を、キッチ氏はコードリポジトリになぞらえる。開発者はプログラムを理解する際、コミット履歴を最初から読み返すのではなく、まず現在のコードベースの状態を見る。ところがAIとの対話では、現在の文脈をつかむために過去のメッセージ全体をたどり直さなければならない場合が多い。同氏は、文脈が失われやすいのは当然だと指摘した。
一方で、同氏はマインドマップを好むとしながらも、それだけでAIインターフェースの将来像を説明し切ることはできないとする。
そのうえで、既存のチャットUIの限界を超えようとする研究事例も紹介した。AIの回答をノードリンク図に変換する「Graphologue」、キャンバス画面と階層構造の画面を行き来できる「Sensecape」、会話を複数の分岐として扱い任意の時点に戻れる「Branchat」などだ。さらに、会議内容を地図のように整理する「MeetMap」や、音声対話を概念地図へ変換する「Orality」にも言及した。
キッチ氏は、インターフェースの前に見直すべき要素として記憶の仕組みを重視する。アンドレイ・カルパシー氏が提案した「LLMウィキ」方式を例に挙げ、会話履歴を毎回すべて投入するのではなく、知識を更新し続けるウィキとして蓄積していくアプローチを紹介した。
Microsoft Researchの「GraphRAG」も、同様の方向性にある試みだと位置付けている。
最終的にキッチ氏が構想するのは、チャット、カンバンボード、マインドマップ、タイムラインが、単一の文脈基盤の上で異なる表示形式として共存する構造だ。同氏はこれを、個別のセッションや特定のモデルに縛られず、独立したレイヤーとして機能する「コンテキストOS(Context Operating System)」と表現した。
キッチ氏は「脳とコンピュータを直接つなぐにはまだ時間がかかる。その前に、文章より一段上のレベルで機能するインターフェースは作れる」と結んだ。