写真=トマシュ・トゥングズ氏(Xアカウントより)

Theory Venturesの創業者兼ゼネラルパートナー、トマシュ・トゥングズ氏は、AIモデル市場で最上位モデルの性能向上が続く一方、実際の需要はより低価格なモデルに集まっているとの見方を示した。利用の重心が価格対性能に優れたモデルへ移ることで、最上位モデルが巨額の学習投資を回収するハードルは今後一段と高まる可能性がある。

同氏はXへの投稿で、最新AIモデルの性能は上昇を続けているものの、利用の中心は必ずしも最高性能のモデルではないと指摘した。現時点の最上位クラスのAIモデルは、昨年11月に比べて性能が約3分の2向上しており、新モデルも3日に2本のペースで投入されているという。

一方、実際の利用動向は異なる。トゥングズ氏によると、AIモデルのルーティングプラットフォーム「OpenRouter」で流通するトークンの84%は、最上位モデル以外のモデルが処理している。

さらに、大半のトークンを処理している6モデルは、最上位モデルの77%程度の性能を持ちながら、価格はClaude Fable 5の2.5%にとどまると説明した。

8月10日時点で、直近1週間の総利用量の80%を占めたこれら6モデルの平均価格は、100万トークン当たり0.5ドル(約75円)だった。同じ条件でFable 5は20ドル(約3000円)だとしている。

こうした傾向は、フィンテック企業Rampのデータにも表れているという。Fable 5は100万トークン当たり10ドル(約1500円)水準で提供を開始し、1カ月でAnthropic全体のトークン使用量の6%、売上の11%を占めた。

一方、OpenAIの最上位有料モデル「GPT-5.6 Sol」は、OpenAI全体のトークンの約4分の1を占めた。7月時点ではFable 5の価格はGPT-5.6 Solを大きく上回っていたが、売上ベースではGPT-5.6 Solの75%にとどまったという。

トゥングズ氏は、新たな最上位モデルが登場しても、市場シェアの変動幅は以前ほど大きくならないとの見通しも示した。

背景として、同氏は2つの要因を挙げる。第1に、企業の支出が1〜2社に集約され、契約先が固定化しやすくなっていることだ。これはクラウド産業の初期に見られた動きと似ており、いったん特定モデルが高付加価値業務に定着すると、その地位を維持しやすいという。

第2に、モデル間の性能差そのものが縮小している点がある。オープンソースモデルのうち最高性能のモデルは、昨年5月時点では最上位モデルの48%の性能水準にとどまっていたが、今年5月には80%まで追い上げたという。

アプリケーション開発の現場でも、同様の流れが出ている。トゥングズ氏は、Theory Venturesの投資先企業の多くが、小型モデルやファインチューニングモデル、オープンソースモデルを基盤として活用していると説明した。性能の絶対値よりも価格を重視し、別の評価軸で最適解を探っているためだという。

その上で同氏は、低価格で「十分に良い」モデルに利用が集まり続け、最上位モデルへの移行が鈍れば、最上位モデルの経済性は大きく変わると指摘した。学習に数億ドル規模を投じたコストを回収するには、十分なシェア確保が不可欠であり、そのハードルは時間の経過とともに高まるとみている。

もっとも、最上位モデルが引き続き必要とされる領域もある。代表例として、ソフトウェアエンジニアリングの設計やセキュリティ設計を挙げた。

それでも同氏は、これまでのデータを見る限り、AIモデル市場で重要なのは最高性能を競うことではなく、価格対性能の競争だと強調した。

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