米AI大手がAIモデルの値下げを急いでいる。中国系AI企業の低価格攻勢を受けた動きで、世界のAI市場では価格競争を軸とした再編が加速している。
英Financial Times(FT)は8月15日(現地時間)、OpenAIが自社モデルのうち最も高速かつ低価格と位置付ける「GPT-5.6 Luna」を最大80%値下げしたと報じた。中位モデルの「Terra」も20%引き下げたという。
Anthropicも価格戦略を見直した。「frontier intelligence」を掲げ、新モデル「Opus5」を同社の最上位モデル「Fable5」の半額水準で投入した。
FTはSilicon DataのToken Price Indexを引用し、こうした動きを受けて米主要AI企業のモデル利用に顧客が支払うコストは、7月中旬以降およそ4分の1低下したと伝えた。
今回の値下げは、これまでクローズドモデルを軸に性能訴求を進めてきた米AI企業の路線転換を示している。開発者が無料でダウンロードし、改変も可能な中国のオープンモデルが台頭し、米企業に値下げ圧力をかけた格好だ。
MoonshotAI、DeepSeek、Z.aiなどの中国AIスタートアップは、低価格モデルを武器に中国国内だけでなく米欧市場でも存在感を強めている。これに加え、AnthropicとOpenAIが定額制から従量課金へ軸足を移したことで、企業のAI利用コスト負担は増していた。
一部企業はコスト増への対応として、従業員によるAI利用に上限を設けたり、より安価な代替モデルの検証を進めたりしている。FTは、DoorDashやAirbnbなど米大手インターネットサービス企業もコスト削減の一環として中国AIモデルを採用し始めたと報じた。
ウェブホスティング企業HostingerでAI技術責任者を務めるマンタス・ルカウスカス氏は、「最高性能モデルの価格は横ばいか、むしろ上昇している」と指摘。その上で、「最近の価格変化は、AnthropicやOpenAIのような企業が先端モデルの価格を維持できるかを占う、最初の本格的な試金石になる」と述べた。
値下げのタイミングも注目される。OpenAIとAnthropicは兆円規模の新規株式公開(IPO)を進める局面にあり、投資家は巨額投資が実際の収益につながるかを見極めようとしている。
一方で、値下げは収益性の悪化懸念も招く。もっとも足元では、価格下落を上回るペースで利用量が増えているようだ。
Business Insiderによると、OpenAIは大幅値下げ後に売上が増加した。「GPT-5.6 Luna」を80%、「Terra」を20%それぞれ引き下げた後、顧客の利用量が大きく伸びたという。
TD Cowenのアナリストは、複数のAIモデルにアクセスできるサービス「OpenRouter」の利用データを基に分析した。その結果、Lunaの実質価格は値下げ後に約10分の1へ低下した一方、利用量は約14倍に増加した。Terraも実質価格が約3分の1に下がり、利用量は約5倍に増えたとしている。
TD Cowenは、OpenAIのLunaの売上高が値下げ前の7日間に比べ約34%増え、Terraも約45%増加したと推定した。
法人カードと企業支出管理プラットフォームを手掛けるRampによると、OpenAIの「GPT-5.6 Sol」は7月の企業支出額ベースで、Anthropicの最上位モデル「Fable5」を上回る比率を占めた。相対的な低価格が利用拡大の要因とみられている。
Business Insiderはこの動きについて、石炭利用の効率向上がかえって消費量の増加を招くとされる「ジェボンズのパラドックス(Jevons paradox)」に似ているとも報じた。この概念は、19世紀の経済学者ウィリアム・スタンリー・ジェボンズが提示したものだ。
同メディアはまた、AIトークンの生産コストそのものも低下しており、今後も値下げが続く可能性が高いと指摘した。ただ、TD Cowenの調査期間は値下げ後およそ2週間にとどまっており、売上拡大が持続するかどうかはなお見極めが必要としている。