NVIDIAがオープンモデルの開発を加速している。自社モデルの開発・公開を通じてGPU需要の拡大を狙う一方で、NVIDIA製ハードウェアを使ってAIモデルを開発する顧客企業との競合につながる可能性も指摘されている。
米The Informationによると、NVIDIAは少なくとも1兆パラメーター規模のオープンソース大規模言語モデル(LLM)「Nemotron 4」を開発中だ。
パラメーター数は、NVIDIAが6月に公開した「Nemotron 3 Ultra」の約2倍に当たる。世界最大級とまではいえないものの、トップクラスの規模になるとみられる。中国AIスタートアップのMoonshot AIが公開した「Kimi K3」は総パラメーター数が2兆8000億、DeepSeekの「V4-Pro」は1兆6000億とされる。
Nemotron 3 Ultraは、ArenaやArtificial Analysisなど複数のベンチマークで、米国のオープンモデルとしてはThinking Machines LabのInklingsに次ぐ評価を得ている。一方で、中国の有力オープンモデルとの差は大きく、総合順位では40位圏外にとどまるという。
そのため、Nemotron 4が投入されれば、オープンモデル分野でのNVIDIAの存在感は一段と高まるとの見方が出ている。
NVIDIAはNemotron 4シリーズの開発と並行し、軽量オープンモデル「Nemotron 3.5 Lightning」や、企業が用途に応じて最適なAIモデルを接続できるようにするモデルルーティング向けの無償ソフトウェアも提供している。
自社モデルの学習に必要な計算資源への投資も拡大している。NVIDIAは、自社チップを購入する一部クラウド事業者からAIサーバーを再リースして計算資源を確保している。The Informationによれば、2031年初めまでを対象とする複数年のクラウドサービス契約額は4月時点で280億ドルに達し、1年前の約3倍に増えた。
もっとも、こうした取り組みの拡大に伴い、オープンかクローズドかを問わず、NVIDIAのGPU上でAIモデルを開発する企業との関係が複雑化する可能性もあるとの見方がある。
実際、NVIDIAのAIモデルを採用する企業は増えている。Palantirは6月、NVIDIAと協力し、米政府向け顧客にNemotronモデルを活用すると発表した。
こうした企業の多くは、これまでNVIDIAのGPUを使ってAIモデルを開発してきた。その中でNVIDIAは、主要なAIモデル開発企業であるOpenAIに300億ドルを投資したほか、Reflection AIやThinking Machines Labなど米国のオープンソースAIスタートアップにも多額の資金を投じている。
NVIDIAは、自社のオープンモデル戦略について、オープンモデルの多様化が最終的には自社チップ需要の拡大につながるとの立場を示している。AIモデルそのもので収益を上げる企業と競合する意図はないとも明確にしている。
NVIDIAにとっては、スタートアップから大企業まで、より多くの企業が自社ハードウェアに最適化された高性能・低コストのモデルを使ってAIを開発・活用するほど追い風になる。他社によるオープンモデル開発が活発になれば、それも同様にプラスに働く。
The Informationは、NVIDIA幹部の話として、自社モデルの開発が競争を促し、結果としてより多くのオープンモデルを生み出すことで、GPU需要を押し上げるとの見方をNVIDIAが持っていると報じた。
NVIDIAの生成AI部門でバイスプレジデントを務めるカリ・ブリスキ氏は、「NVIDIAは、あらゆる企業と国家が安全性とセキュリティを強化し、イノベーションを加速し、将来にわたって信頼して活用できる基盤を整えるためには、利用しやすい最先端のオープンモデルが必要だと考えている。だからこそNemotronに投資している」と述べた。
自社のオープンモデル開発は、GPU需要の拡大だけでなく、NVIDIAのハードウェア設計力を高めるうえでも重要な意味を持つ。
NVIDIAは以前から、ハードウェア設計に必要な知見を得るために自社AIモデルを開発してきた。
カリ・ブリスキ氏は、テック系ポッドキャストとニュースレター「Big Technology」を運営するアレックス・カントロウィッツ氏(Alex Kantrowitz)とのインタビューでも、「LLM分野での存在感は基盤技術を開発する力に根差している」と強調した。基盤技術を正しく理解してこそ、パートナーとより明確なコミュニケーションが取れるという。
同氏は「私たちは、こうしたモデルを大規模に訓練する方法と、推論を通じて大規模に実行する方法を理解しなければならない。それによってGPUアーキテクチャだけでなく、ストレージやネットワーキングにも知見を還元できる」と語った。
オープンソースAIは、中国勢が同分野でグローバル市場での存在感を高める中、地政学の面でも重要性を増している。ジェンスン・フアンCEOはオープンソースを積極的に支持しており、7月にはメールで「オープンモデルは、安全性、サイバーセキュリティ、科学の進歩、国家安全保障を前進させる」と強調した。