通信3社はフィジカルAIを次の成長領域とみなし、ロボットや製造現場向けの展開を急いでいる。写真はイメージ(Shutterstock)

通信3社が、ロボットや製造現場を主戦場とする「フィジカルAI」の事業化を急いでいる。現実空間を認識し、自律的に動作するAIを次の成長分野と位置付け、関連技術の開発と実証、商用化に向けた取り組みを進めている。

フィジカルAIは、テキストや画像を生成する従来の生成AIから一歩進み、周辺環境を認識・判断し、ロボットや各種機器を通じて現実空間で行動する技術を指す。中核技術としては、視覚情報と言語を行動に結び付けるVLA(Vision-Language-Action)、現実空間を仮想環境に再現するデジタルツイン、ロボット学習用データなどが挙げられる。

通信業界がこの分野に注目する背景には、ネットワーク、クラウド、データセンターといった既存インフラを生かしやすい点がある。大容量データのリアルタイム伝送や、エッジ基盤を活用した現場データの高速処理など、実運用に必要な条件を備えているためだ。

◆SK Telecom、デジタルツインで製造分野を深耕

SK Telecomは、製造業向けAIで培ったデジタルツイン技術をフィジカルAIへ広げている。工場や設備を仮想空間に再現し、工程変更や設備配置の見直しによる影響を事前に検証するほか、ロボットの学習にも活用する考えだ。

同社はこれまで、NVIDIA Omniverseベースのデジタルツイン技術をSK hynixの半導体工場に適用してきた。実際の工場を仮想空間上に再現し、生産ラインの変更や設備配置の影響を事前に確認できるようにするのが狙いだ。ロボット学習データの確保と標準化も進めており、仮想空間でデータを生成し、学習に活用する仕組みづくりを進める。

国際標準化にも動いている。SK Telecomが国際電気通信連合の電気通信標準化部門(ITU-T)に提案した「ロボットデータファクトリー連動の構造・方式」は、新たな標準化課題として採択された。メーカーやプラットフォームごとに異なるデータ形式を連携させ、学習データを効率的に活用するための技術としている。

スタートアップとの連携も広げた。7月には国内のロボティクス系スタートアップ8社との意見交換会を開き、デジタルツイン空間でのロボット基盤モデル(RFM)開発に向けた学習データの構築や、製造・物流・サービス現場での共同実証を協議した。SK Telecomは、研究段階の技術を現場導入と事業化へつなげる機会になるとして、国内フィジカルAIスタートアップとの提携拡大を打ち出している。

◆KT、異種ロボットを統合制御 「K RaaS」を前面に

KTはロボット本体の開発よりも、複数のロボットや設備をつなぐ統合制御に軸足を置く。中核となるのはロボットサービスプラットフォーム「K RaaS(KT Robot as a Service)」で、異なるメーカーのロボットに加え、既存の産業設備や企業のITシステムまで一元的に管理できるようにする。

物流センターでは、移動型ロボットだけでなく、倉庫管理システム(WMS)やエレベーター、自動ドアなども連携対象とし、作業フロー全体を統合する構想だ。

KTは、ロボットが周辺状況や人の指示を理解して行動するVLAベースの技術開発も進めている。特定メーカーに依存せず、ヒューマノイドや移動型ロボットなど多様な機体に適用するのが目標という。2月にスペイン・バルセロナで開かれたMWC26では、ヒューマノイドが部品の状態を確認した後、移動型ロボットに搬送作業を指示するシナリオを公開した。こうした連携型の作業システムを通じて、知能型フィジカルAIのエコシステム構築を目指す。

K RaaSの適用先は、半導体工場や物流センター、スマートビルへと広がっている。KT関係者は今後について、製造や物流にとどまらず、ホテル、リテール、医療分野にも展開する考えを示した。

産業現場での実証も進行中だ。KTは韓国科学技術情報通信部の「高性能人工知能ネットワーク基盤造成事業」に参加し、Samsung Electronics、HD Hyundai Samhoとともに、全羅南道・霊岩のHD Hyundai Samho造船所でAI-RANベースのフィジカルAIサービスを構築している。溶接・塗装工場では、四足歩行の溶接ロボットによる精密溶接や、自律走行型の塗装ロボットを活用した工程自動化を実証し、生産性と安全性を検証する。

◆LG Uplus、「ixio」を軸に音声連携を強化

LG Uplusは、通信事業者の強みである音声インターフェースをフィジカルAIに結び付ける戦略を取る。音声サービス「ixio」が通話内容を基に利用者の状況を把握し、必要な行動を判断したうえで、ヒューマノイドがそれを実行する構想だ。

例えば、通話中に出張の話題が出れば、ixioが日程や天候などを確認し、ヒューマノイドが必要な物品を準備する。今後はスマートグラスやウェアラブル、家電、車両とも連携し、利用者が個別に指示しなくても状況に応じたサービスを提供する「アンビエントAI」へと広げる方針だ。

ネットワーク技術の開発も並行して進める。LG Uplusは延世大学とともに、5G網とAI-RAN試験網を連動させ、ロボットやドローンが異なるネットワーク間を移動しても接続を維持できる技術を検証した。工場や物流センターにとどまらず、多様な空間で稼働させるには、途切れない通信が不可欠だと判断しているためだ。

もっとも、通信3社のフィジカルAI投資が本格的な収益につながるまでには、なお課題が残るとの見方もある。コスト削減や生産性向上といった具体的な効果が、まだ十分に立証されていないためだ。

業界関係者は「3社とも当面は収益性より、産業現場でどこまで効率的に使えるかを検証する段階にある」としたうえで、「製造や物流など、投資対効果を比較的明確に見極めやすいB2B分野から先に事業化が進む可能性が高い」と話した。

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