中国の最先端AIモデルの多くが、学習段階ではなおNVIDIA製チップに依存していることが分かった。中国政府が半導体の自立を進める一方で、現地のAI開発企業は国産チップへの切り替えに伴うコストと技術的負担の大きさから、学習インフラの移行を容易に進められていない。
香港紙サウスチャイナ・モーニング・ポスト(SCMP)が10日、こうした実態を報じた。
最大の障壁として浮上しているのが、ソフトウェアを含む開発エコシステムだ。NVIDIAのCUDAは長年にわたりAI開発の標準基盤として定着してきた。一方、Huaweiの代替プラットフォーム「CANN」へ移行するには、大規模なコードの書き換えや最適化が必要になるという。
業界関係者はSCMPに対し、「中国のAI開発企業では、現在も大規模言語モデル(LLM)の学習をNVIDIAチップで行うのが一般的だ」と語った。
上海の大学の傘下の研究機関でAIモデルを開発するジェームズ・ワン(James Wang)も、既存の学習パイプラインがCUDAに依存していると明らかにした。同氏は「CUDAのコードはAscendでそのまま実行できず、広範な書き換えが必要になる」と説明。「既存のワークフローをHuaweiのAscendチップへ移す場合、時間と費用が少なくとも50%増える可能性がある」と述べた。
移行負担は、モデルの構造や公開形態によってさらに大きく変わる。北京でLLMのAscend移行を経験したエンジニアによると、DeepSeekのようなオープンソースモデルとその蒸留モデルであれば、既存エコシステムの支援を活用できるため、NVIDIAベースのシステムに比べて追加でエンジニア2〜3人を約1カ月投入すれば学習が可能だという。
一方、Moonshot AIの「Kimi K3」のようにソースコードは公開せず、重みだけを公開したモデルでは、約10人のエンジニアによる6カ月超の追加作業が必要になる可能性があるとした。
こうした状況は、中国AI業界で国産化が学習よりも推論で先行していることも示している。SCMPは、AI開発は学習と推論に大別され、学習は複雑で計算資源を大量に消費するのに対し、推論は比較的移行しやすいと指摘した。
実際、DeepSeek-V4とMoonshotのKimi K3は、HuaweiとAlibaba Group Holdingのプラットフォーム向けに対応したと報じられている。なお、Alibaba Group HoldingはSCMPの親会社でもある。
ただ、学習段階でどのチップを使ったのかは依然としてセンシティブな情報だ。DeepSeekとMoonshotはいずれも、自社モデルの学習に使用したAIチップを公表していない。
Kimi K3については、米The Informationが7月、NVIDIAのBlackwellプロセッサを含むチップで学習されたと報じた。中国のAI企業が国産代替の拡大を進める一方、最先端モデルの学習ではなおNVIDIAのハードウェアに依存している実態が改めて浮き彫りになった格好だ。
中国国内で、国産チップを基盤とする学習環境の構築を試みる動きがないわけではない。Meituanは6月、1兆6000億パラメータ規模の「LongCat-2.0」を公開し、供給元は明らかにしなかったものの、5万枚規模の国産演算クラスタでモデルの学習と実行を完了したと発表した。
中国のAI半導体自立を巡っては、焦点がチップ性能そのものよりも、開発エコシステムの移行コストにあることが改めて鮮明になっている。国産チップは推論分野で活用が広がっているが、最先端モデルの学習ではCUDA中心の開発環境をどこまで速く置き換えられるかが、今後の競争力を左右する要因となりそうだ。