イーサリアム共同創業者のビタリック・ブテリン氏は、2023年時点のロードマップを見直し、耐量子安全性の優先度を引き上げた。Ethereum Foundationの最新レイヤー1(L1)構想「Strawmap」と照らし合わせた整理で、将来の量子コンピュータの脅威に備える姿勢をより鮮明にした。
ブロックチェーンメディアのCryptopolitanが10日(現地時間)に報じた。ブテリン氏は従来のロードマップについて、現在のL1 Strawmapの中で各項目がどう位置付けられているかを示し、維持された論点と優先順位が変わった論点を併記した。
今回の見直しで最も目立つのは、耐量子安全性の扱いだ。ブテリン氏自身、同分野の優先度を引き上げたと明言した。一方で、相対的に優先度が下がった課題もあるが、今回示したのはあくまで一部の例だとしている。
2023年のロードマップでは、ポスト量子技術は複数ある課題の一つだった。当時は検証可能遅延関数(VDF)の比重を下げる一方、既存の暗号構造の弱点を踏まえ、難読化や遅延暗号化メンプールといった研究テーマを追加していた。
それから約2年半を経て、今回の改訂では、ロードマップの軸足が量子コンピュータ時代の脅威への備えに一段と移ったことが明確になった。
ブテリン氏が比較の基準としたのは「L1 Strawmap」だ。strawmap.orgで公開されており、Ethereum Foundationのアーキテクチャチームに属するジャスティン、トーマス、トニーの各氏とブテリン氏が共同で管理している。
関係者は、分散型エコシステム全体を代表する単一のロードマップを定めるのは難しいとの立場から、この文書を議論の出発点となるツールと位置付けている。実際、L1 Strawmapは2026年1月のEthereum Foundationワークショップでも議論のたたき台として使われた。
L1 Strawmapは、合意、データ、実行の各レイヤーにおけるアップグレードを時間軸に沿って整理し、5つの最終目標を掲げる。具体的には、数秒以内のファイナリティを実現する高速L1、毎秒1万件処理のギガガス級L1、毎秒1000万件を目指すテラガス級L2、ハッシュベースの安全性を備えたポスト量子L1、遮蔽送金機能を内蔵したプライバシーL1だ。
草案では、2029年までにおおむね6カ月ごと、計7回のフォークを想定しており、GlamsterdamやHegotáといったアップグレード名も盛り込んでいる。
耐量子安全性の強化は、構想段階にとどまっていない。ブテリン氏は2026年6月5日、EIP-8288を提案した。
この提案は、トランザクションごとに暗号学的な依存関係を宣言し、ブロックビルダーがそれを単一の再帰的STARK証明に置き換えることで、ガス効率を維持する設計とされる。
Ethereum Foundationは今年1月、ポスト量子セキュリティを担当する専任チームも立ち上げた。目標時期は2029年で、対象には合意署名、データ可用性コミットメント、アカウント署名、アプリケーション層のゼロ知識証明が含まれる。
こうした動きを踏まえると、今回のロードマップ見直しは単なる図表の更新ではなく、イーサリアムが基幹インフラとしての安全性強化を公式な優先課題に引き上げたシグナルといえる。
ブテリン氏がこの時点でStrawmapの優先順位を見直した背景には、量子コンピューティングの進展もある。暗号体系への脅威が以前より現実味を帯びる中、耐量子安全性の優先度引き上げは想定されていた流れともいえそうだ。
あわせて同氏は、AIツールがロードマップ策定のスピードを高める可能性にも言及した。AIが2030年ロードマップ草案の作成を支援し、本来なら数年かかる作業を2週間に短縮したと明かしたことがあるという。
今回の改訂は、イーサリアムが処理性能とプライバシー強化を引き続き進めながら、中長期では耐量子インフラをL1の中核課題に据えたことを示している。今後は、EIP-8288のような具体策が実際のアップグレード日程とどう結び付くのか、また2029年を目標とする基盤整備がStrawmapのフォーク計画にどの順序で反映されるのかが焦点となる。