NaverとKakaoが、AIサービスの個別最適化に向けた生活データの獲得競争を強めている。Naverはオフライン決済端末を通じて来店・注文・決済のデータを集約し、既存の検索・予約情報と結び付ける。一方、KakaoはKakaoTalkの会話に含まれる予定や関心、嗜好を長期的に蓄積し、ユーザーの意図把握の精度向上を狙う。
AIが検索や回答にとどまらず、予約や注文、決済まで代行するエージェントへ進化するにつれ、競争力を左右するのはデータの量だけではなく、検索から実取引までを切れ目なくつなげられるかどうかになっている。何を探したかだけでなく、その後に何を選び、どこで支払い、会話の中でどんな意向を示したかまで把握できてこそ、より適切な提案や実行につなげやすくなるためだ。
◆Naver、オフライン行動データを取り込む 検索から再来店まで一気通貫
Naverは、オフライン向け統合端末「N Pay Connect」を生活データ戦略の中核に据える。オンラインの3倍超とされるオフライン商取引の決済市場は、デジタル化が十分に進んでおらず、データも構造化されないままオンラインと分断されていると判断。当初は来年まで段階的に進める予定だった普及計画を前倒しした。
同社は、AIが推薦機能を超えて予約・注文・決済を直接実行するほど、来店履歴や注文履歴といったオフライン行動データの価値は一段と高まるとみている。プレイスの検索・予約情報、Naver ID、決済・メンバーシップデータを、N Pay Connectで取得する店舗データと結び付け、検索から予約、注文、決済、再来店までを1つのIDでつなぐ構想だ。
N Pay Connectは単なる決済端末にとどまらない。Naverは、商圏分析やクーポン・販促管理などの事業者向けソリューションに加え、融資・保険の仲介、来店・購買転換データを活用した広告商品へと収益領域を広げる方針を示している。
Naverは、オンラインとオフラインを合算したB2C決済額で来年の国内首位を目指す考えも明らかにした。あわせて、IDベースのオフライン決済規模を5年以内に130兆KRWへ拡大する目標を掲げた。
第2四半期のN Pay決済額は25兆2000億KRWで、前年同期比21%増だった。
加盟店網の拡大と取引データの蓄積は、その後の広告や金融など周辺事業の収益化にも直結する。このため、N Pay Connectの普及ペースが今後の収益拡大を左右する重要な指標となりそうだ。
◆Kakao、会話データを軸に個別最適化 長期メモリで意図を読む
Kakaoは、KakaoTalkの会話そのものをAI個別最適化の基盤と位置付ける。複数の会話に散在する予定や関心情報を、オンデバイスAIの長期メモリでつなぎ合わせ、ユーザーの状況を総合的に理解することで、利用期間が長いほど精度の高い個別化サービスを提供する考えだ。
同社によると、最近公開した軽量モデル「Kanana2 1.3B」は、パラメータ規模を大幅に抑えながらも、対話、知識、指示実行などの分野でグローバルのオープンソースモデルを上回る性能を示したという。
Kakaoは、インターネット・モバイル時代を広告中心の「注目経済」と捉える一方、エージェントAI時代はユーザーの意図を理解し、行動につなげる「意図経済」へ移行するとみている。その最初の外部連携先としてフードデリバリーを選び、Coupang Eatsとの提携を発表した。
連携が完了すれば、KakaoTalk上の会話からデリバリー需要を把握した際、蓄積した嗜好データを基にメニューを提案し、チャットルーム内で注文から決済まで完結させる構想だ。
今後はコマース、予約、旅行、決済などへエージェント機能を広げる計画で、3400超のツールが1日10万回以上呼び出されるオープンプラットフォーム「Play MCP」も併用する方針としている。「Kanana in KakaoTalk」のショートトークと回答に対する肯定評価比率はそれぞれ80%、90%を超え、リテンションもリリース初期の70%台から80%近くまで上昇した。Kakaoは、年末にはKakaoTalk内AIサービスの月間アクティブユーザー数(MAU)が1000万人を超えると見込んでいる。
もっとも、最初の重点領域に挙げたフードデリバリーも、現時点では提携発表の段階にとどまり、実際の連携サービスは始まっていない。ユーザー指標の改善と実取引への転換は別問題であり、デリバリー連携の実現時期と、その後の提携拡大のスピードが収益化のタイミングを左右する見通しだ。
◆Naverは行動、Kakaoは意図 差を分けるのはデータのつながり
両社の戦略は対照的だ。Naverは検索、ショッピング、プレイス、決済を持ち、ユーザーの情報探索から購買後の行動までを比較的つなげやすい。N Pay Connectは、これまで把握しにくかった実店舗での行動データを補完する役割を担う。
これに対しKakaoは、日常的な会話空間であるKakaoTalkを通じて、購買や予約の前段階にある意図を先回りして捉えられる点が強みだ。外部事業者の取引機能が接続されれば、その意図を注文や決済に変換できる可能性がある。
収益化のアプローチも異なる。Naverはオフライン事業者との接点を直接押さえ、決済手数料に加えて広告、ソリューション、金融仲介へと広げる構えだ。Kakaoは外部パートナーの取引機能をKakaoTalkに取り込み、取引手数料、サブスクリプション、AI広告へと収益源を拡大する計画を描く。
ただ、両社に共通するのは、重要なのがデータ総量そのものではなく連結性だという点だ。Naverは検索・予約と来店・決済を1つのIDで束ねる必要があり、Kakaoは会話から読み取った意図を外部サービスの注文・決済プロセスにつなげなければならない。データが途中で途切れれば、AIが提案しても実取引には結び付きにくい。今後の優劣を分けるのは、データ量よりも接続の完成度となりそうだ。
当面の注目点も明確だ。NaverではN Pay Connectの加盟店数とオフライン決済額の伸び、Kakaoではデリバリー以外の領域へ提携をどこまで広げられるかが、それぞれのデータ戦略が実際の収益へ転化するかを測る次の指標となる。