米政府が戦略ビットコイン備蓄の創設を打ち出してから1年以上が経過した。だが、実際にどれだけのビットコインを保有し、どこまでを備蓄に算入できるのかは依然として明らかになっていない。市場関係者の推計も約20万BTCから32万BTC台まで開きがあり、不透明さが続いている。
CryptoSlateが8月8日付で報じたところによると、こうした差は単純な残高把握の問題ではない。ブロックチェーン上で追跡できる政府関連ウォレットの残高と、政府が法的に自由に処分できる資産の範囲が一致しないためだ。
ドナルド・トランプ米大統領は2025年3月6日、戦略ビットコイン備蓄の設立に向けた大統領令に署名した。ホワイトハウスは当時、政府保有のビットコインを原則売却しない方針を示し、連邦機関に対して30日以内にデジタル資産の保有状況と保管口座を財務省へ報告するよう求めた。
あわせて財務省には、60日以内に備蓄口座の所在や管理方式、議会承認の要否などを検討するよう指示していた。
ただ、1年が過ぎた現在も、政府が実際に備蓄へ組み入れ可能なビットコインの規模は公表されていない。備蓄計画の発表当時、ホワイトハウスの暗号資産顧問を務めるデービッド・サックス氏は、連邦政府が約20万BTCを保有していると明らかにしていた。
一方、2026年7月時点の外部推計では、Arkhamが約32万4000BTC、Bitcoin Treasuriesが32万8372BTCと見積もっている。基準価格6万2761ドルで試算すると、20万BTCと32万BTC台の差は8.18億ドル規模ではなく、約81億8000万ドルに達する。
もっとも、この開きは直ちに政府によるビットコインの紛失を意味するものではない。ブロックチェーン分析会社は政府関連ウォレットの移動や残高を追跡できても、その資産の最終的な法的所有権までは確認できないためだ。
戦略ビットコイン備蓄に算入するには、当該ビットコインが財務省に帰属し、最終的な没収手続きが完了している必要がある。さらに、被害者補償や法執行上の別の義務に縛られていないことも条件になる。
このため、政府関連ウォレットに入っている資産のすべてが、そのまま備蓄分になるわけではない。
代表例として挙がるのが、2016年のBitfinexハッキング事件で回収された9万4000BTC超だ。この資産は一部の政府保有量推計に含まれてきたが、被害者補償や所有権を巡る手続きはなお継続中とされる。
仮に約9万4643BTCが返還されれば、政府の外部推計による保有量は、追加売却がなくても3割近く減少する可能性がある。
混乱をさらに広げたのが、2025年10月の司法省の発表だ。司法省は、カンボジアのPrince Group創業者兼会長チェン氏に関連する約12万7271BTCを確保したと明らかにし、検察は史上最大規模の没収訴訟だと説明した。
時期と規模を踏まえると、この案件は政府推計保有量が約19万8000BTCから32万4000BTC超へ急増した流れと大きく重なる。ただし、司法省が示したのは、民事没収訴訟が提起され、当該資産を連邦政府が保管しているという事実にとどまる。
それは、政府が法的制約なく最終的な所有権を確保したことを意味しない。最終没収が完了しているのか、被害者の請求権から切り離されているのか、財務省の管理口座へ移されているのかといった点は、公表資料だけでは確認が難しい。
こうした不透明さは、市場の受け止め方にも直接影響している。先月15日には、政府関連ウォレットから約8時間にわたり、3941BTCと3万7000ETHがCoinbase Primeへ移動した。
Arkhamは、この移動規模を約2億8833万ドル(約433億円)と試算した。
ただし、この取引が単なるカストディ先の変更なのか、資産統合や事務処理なのか、法的に認められた処分準備、あるいは実際の売却なのかは確認されていない。米連邦保安官局がCoinbase Primeを大口デジタル資産の保管・高度取引サービス提供事業者に選定しているため、同じ移転先でも意味合いは一様ではない。
そのため、売却と断定することはできない一方、単純な保管移管とみるだけの材料も乏しい。
米政府は、ビットコイン以外のデジタル資産を対象とする別枠のデジタル資産備蓄も運用している。ただ、管理対象が広がるほど、全体の資産規模を外部から正確に把握するのは難しくなる。
どの機関がどの資産を報告したのか、最終没収の基準を満たす資産がどれだけあるのか、実際に財務省の管理口座や備蓄口座へどの程度移されたのかは、いずれも公開されていない。
ホワイトハウスは2025年7月、166ページに及ぶデジタル資産報告書で、財務省が備蓄分と受託口座を管理し、没収資産が主要な財源になること、ビットコインは原則として売却しないことを記した。ただ、財務省が備蓄の設立・管理に関する検討事項をホワイトハウスに提出したと説明するにとどまり、機関別の保有状況や最終的な編入残高は開示しなかった。
議会には「2026年米国準備金近代化法」が提出されている。連邦政府が保有するデジタル資産を財務省に集約し、四半期ごとの準備金証明報告書、第三者監査、議会監督を義務付ける内容だ。
戦略ビットコイン備蓄について最低20年の保有期間を設ける案も盛り込まれた。ただ、法案はなお提案段階にあり、足元の保有量を巡る論争を直ちに解消するには限界がある。
結局のところ、市場の最大の関心は追加購入の有無ではなく、政府が実際にどれだけのビットコインを保有しているのかにある。最終没収が完了した資産、訴訟中の押収分、被害者補償や債権請求が付いた資産、財務省移管分、備蓄口座への編入分、例外条項に基づいて処分された分を区分して開示すべきだとの指摘が出ている。
ビットコイン市場では「信頼するな、検証せよ」が重視されてきた。国家備蓄資産の安全性の観点から、ウォレットアドレスや秘密鍵を公開しない合理性はあるとしても、総保有量まで非公表のままであれば、市場の信頼を維持するのは難しい。米国の戦略ビットコイン備蓄を巡っては、検証可能な情報開示の不足が引き続き課題となっている。