米ホワイトハウスの技術政策を担う高官が、中国のAIスタートアップMoonshot AIに対し、Anthropicのモデルを無断で蒸留して新モデル「Kimi K3」を開発したと公に批判した。Moonshot AIが「Kimi K3」の一般公開を進めるタイミングで、米政府高官が名指しで問題視した格好だ。
ブロックチェーン系メディアのCryptopolitanが22日(現地時間)に報じたところによると、マイケル・クラチオス米大統領府科学技術政策局(OSTP)局長はX(旧Twitter)への投稿で、Moonshot AIが米国製モデルの出力を大規模に収集する社内専用システムを構築していたと明らかにした。
クラチオス氏は、Moonshot AIがアクセス経路を繰り返し変更して追跡を回避しながら、米国の技術を流用する目的で秘匿性の高い大規模な蒸留を進めていたと主張した。その上で、「米国の独自技術を盗み、米国の研究基盤を弱体化させるための、秘匿された産業規模の蒸留は容認できない」と述べた。
問題視されている「蒸留」は、より高性能なモデルの出力を使って、より小型または性能の低いモデルに挙動を学習させる手法を指す。公開環境で限定的に活用されるケースは広く知られているが、クラチオス氏はMoonshot AIがこれを非公開のまま産業規模で実施した点を問題視している。通常の開発手法ではなく、実質的な技術窃取に当たるとの認識を示した形だ。
こうした主張は、Anthropicが今年2月に公表した調査内容とも重なる。Anthropicは当時、Claudeの会話340万件超がMoonshot AI側に取得され、その過程で数百件の偽アカウントが利用されたと主張していた。
また、一部アカウントの記録はMoonshot AI幹部の公開プロフィールと一致したとしている。Anthropicによれば、こうした活動はClaudeの推論能力やコーディング能力、ビジョン能力を狙ったものだったという。
クラチオス氏はさらに、この作業にNVIDIAのGB300サーバーが使われたとも主張した。サーバーはタイに設置されていたとされ、GB300はNVIDIAの高性能チップ群に属するという。
同氏は、こうしたチップは米国の輸出規制の対象であり、中国向け輸出が認められていないと指摘した。
Moonshot AIは16日、「Kimi K3」を公開した。2兆8000億パラメータのオープンウエイトモデルとして紹介しており、公開から2日後には「Kimi」の新規登録受け付けを停止した。
モデルの重み全体は27日までに公開する予定だとしている。
Anthropicは、こうした公開自体もリスク要因になり得るとみている。蒸留によって作られたモデルは、元のモデルに実装された安全対策をそのまま維持できない可能性があり、重みがいったん公開されれば管理不能な形で拡散するおそれがあるためだ。
Anthropicは、公開ウエイトモデルが最終的に誰の管理下からも外れ得るとの懸念を示している。
Moonshot AIは現時点で公式な立場を示していない。クラチオス氏も、具体的な制裁措置には言及しなかった。
これに先立つ2025年1月には、デイビッド・サックス米AI責任者が、DeepSeekがOpenAIのモデルを複製したと主張したが、DeepSeekはこれを全面的に否定した経緯がある。中国政府も、Anthropicが2月に示した調査結果について、根拠がないとして退けていた。
今回の応酬は、米中が9月のAI協議に向けて準備を進める時期と重なっている。米国はAI投資規模でなお中国を大きく上回る一方、中国の研究機関は米国勢との性能差を縮め続けている。
「Kimi K3」を巡る今回の疑惑は、米中のAI競争が単なるモデル性能の優劣を超え、学習データの扱いや先端チップの統制、公開モデルの拡散リスクにまで争点が広がっていることを示している。