AIデータセンター向け電力の確保を巡り、専用発電設備の買収に踏み切ったことを示す案件だ。写真=Shutterstock

イーロン・マスク氏率いる人工知能(AI)企業xAIが、移動式発電会社APR Energyを買収したことが分かった。AIサービス「Grok」の運用に必要な電力を独自に確保する狙いとみられる。一方で、化石燃料発電の拡大を巡る環境面の論争も強まりそうだ。

EV専門メディアのElectrekが14日(現地時間)に報じた。米連邦取引委員会(FTC)が企業結合審査の早期終了を公示し、取引の成立が明らかになった。

FTCが審査を早期終了したことで、追加の反トラスト審査は行われなかった。

買収額は公表されていない。ただ、APR Energy株の5%を保有する投資家が約5040万ドル(約75億6000万円)を受け取ったとの開示を踏まえ、市場では企業価値が10億ドル超(約1500億円)に達するとの見方が出ている。

Fortress Investment Groupは2025年末、APRの資産を取得して「New APR Energy LLC」を設立し、その後マスク氏側に売却したとされる。

APR Energyは、移動式発電設備を手掛ける企業だ。トレーラーで運搬可能なガスタービンやディーゼル・天然ガスエンジンを供給しており、固定式発電所が設置から稼働まで数年かかるのに対し、数日で立ち上げられる点を特徴とする。

設備は約10分で最大出力に達するとされ、総発電容量は1GWを超えるという。

今回の買収により、マスク氏は送電網への接続を待たずに、AIデータセンターの近隣へ移動式発電設備を配置し、電力を直接供給できる体制を確保した格好だ。

こうした方式は、xAIが米テネシー州メンフィスで運用するAIスーパーコンピューター「Colossus」でも採用されているという。Grokの学習やサービス運用に使われるColossusと後継の「Colossus 2」は、電力の大部分をガスタービン発電に依存してきたとされる。

一方で、環境面での批判も強い。米司法省は先月、サウス・メンフィス地域におけるxAIの発電設備運用について、国家・経済・エネルギー安全保障に関わる問題として対応に乗り出した。

これに先立ち、全米有色人種地位向上協会(NAACP)と環境団体は、xAIが最大35基のガスタービンを無許可で設置し、汚染低減装置も十分に備えていないとして、清浄大気法違反で提訴した。

環境団体は、当該設備から年間2000トン超の窒素酸化物(NOx)が排出される可能性があると主張している。xAI関係者も、今後構築するColossus 2に現行の移動式タービン運用方式を適用する計画を明らかにしていた。

今回の買収は、マスク氏がこれまで強調してきた環境配慮型のエネルギー戦略とは対照的でもある。マスク氏は今年初め、TeslaとSpaceXが米国内で年間100GW規模の太陽光製造能力を構築すると発表していたが、AIデータセンターの電力確保では太陽光やエネルギー貯蔵装置(ESS)ではなく、ガス・ディーゼル系の発電設備を選んだ。

このため、AI時代の膨大な電力需要が、環境転換よりも現実的な電力確保を優先させているとの見方も出ている。マスク氏は過去に化石燃料を「歴史上最も愚かな実験」と批判したことがあるが、足元ではAIインフラ拡大に向けてガス発電への依存を強めているとの指摘もある。

xAIはこのところ、AIチャットボットGrokの成人向け会話機能やAIコンパニオン機能、画像生成機能を巡っても論争に直面している。一部機能が不適切なコンテンツ生成に使われるおそれがあるとの懸念があり、安全対策の強化を求める声も高まっている。

市場では、今回のAPR Energy買収をxAIによるデータセンター向け電力確保の戦略投資と受け止める向きが多い。今後は、確保した移動式発電設備をどの地域に配置するのか、また環境規制や許認可手続きにどう対応するのかが焦点となる。

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