欧州と北米で、電力網の基幹設備である電力用変圧器の不足が深刻化している。AIデータセンターの増設や電気自動車(EV)の普及、産業の電化が重なって需要が急増しており、新規の系統接続が数年単位で遅れる可能性が出てきた。
TechRadarが14日(現地時間)に報じたところによると、変圧器の生産能力が需要の拡大に追いつかず、供給の逼迫が一段と強まっている。
最も大きいのは納期の長期化だ。2020年以前は通常6〜12カ月だった納期が、足元では24〜48カ月に延びている。特に100MVA・230kV級以上の大型変圧器は、従来12〜18カ月程度で出荷されていたが、現在は納入まで36カ月を大きく超える可能性がある。価格も2020年以前に比べて50〜80%上昇した。
需要は複数の分野で同時に膨らんでいる。EVの普及と産業の電化が地域の電力網への負荷を押し上げているほか、風力や太陽光の発電設備でも、長距離送電の前段階で電圧を引き上げる昇圧変圧器が必要になる。蓄電池プロジェクトでも、系統連系用の専用変圧器が求められる。
なかでも新たな需要先として存在感を高めているのが、AI向けデータセンターだ。こうした施設は1拠点で数百MW規模の電力を必要とする場合があり、中規模都市に匹敵する電力消費量になるとされる。大手テック企業は数年先の生産枠を前払いで押さえられるため、相対的に規模の小さい需要家は待機期間がさらに長くなっている。
供給制約は、単に生産スピードだけの問題ではない。変圧器コア材に使う方向性電磁鋼板が不足しているうえ、EUおよび米エネルギー省の効率基準の影響で代替材への切り替えも難しい。内部巻線に使う銅価格も高止まりしている。加えて、組み立て工程は精密な手作業への依存度が高く、熟練人材の不足も増産の足かせになっている。
工場の試験設備も制約要因とされる。変圧器は出荷前にインパルス電圧試験や短絡試験を受ける必要があるが、試験設備には週内に処理できる件数の限界がある。生産ラインを増やすだけでは、短期間で供給不足を解消できない理由だ。
老朽化したインフラの更新需要も重なっている。米国と西欧では、多くの変電所設備が30〜50年前に整備されており、更新時期を迎えている。このため電力会社は、民間の開発事業者と工場の生産能力を巡って直接競合する構図になっている。結果として、ほぼすべての需要家で待機期間が延びている。
一方、住宅用や商業用の小型変圧器は比較的状況が良い。おおむね12〜20カ月で出荷できるという。これに対し、産業向けの大型機器では遅延がはるかに長く、業界ではこうした需給逼迫を一時的な現象ではなく構造的な問題とみている。
こうした中で、調達戦略にも変化が出ている。業界では、早期発注によって工場の生産枠を先に確保し、技術仕様を標準化している需要家ほど、長期化する納期に対応しやすいとみている。また、需要が集中するメーカーへの依存を避け、調達先を分散する手法も有力な代替策として挙がる。世界需要が生産能力を上回る状況が続く限り、電力網機器のボトルネックはAIインフラの拡大と電力転換全体の不確定要因として残り続ける公算が大きい。