米スタートアップのFervetは、原子力分野の熱管理研究を応用した相変化型液冷技術「Adaptive Phase Change Cooling(APC)」を公開した。サーバーを特殊液体に浸し、沸騰時に生じる微細気泡を使って放熱効率を高める仕組みで、AIデータセンターの電力負担の抑制を狙う。TechRadarが18日付で報じた。
APCの特徴は、従来の空冷ではなく液体を直接使って熱を逃がす点にある。一般的なデータセンターではファンや空調設備でサーバーを冷却するが、APCはサーバーを特殊液体に浸漬し、チップ表面で発生する微細な気泡によって熱を素早く除去する。
チップの発熱で液体が沸騰すると微細な気泡が生じ、その気泡が離脱して液中で再び凝縮する。この過程を繰り返すことで熱伝達効率を高め、従来方式より多くの熱を処理できるとしている。
Fervetによると、この技術は原子炉内部の冷却効率向上に使われる「Subcooled Boiling(過冷沸騰)」の研究に着想を得た。共同創業者のレザ・アジジアンは、「2017年に初めてデータセンターを訪れた際、当時の冷却方式は非効率だと感じた」と説明。「空冷システムはデータセンター全体の電力消費の最大40%を占める可能性があるが、長年にわたって大きく変わっていない」と述べた。
同社は、冷却液にPFAS(有機フッ素化合物)系物質を含まない点も打ち出す。PFASは一部の先端冷却技術で使用される一方、環境汚染への懸念が指摘されている。APCはサーバー単位のモジュール構造を採用し、設置の自由度も高めた。アジジアンは「液体の物理特性によって、従来は難しかった新しいデータセンター設計が可能になった」と話した。
性能面でも改善効果を示した。Fervetは、カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)の研究チームと実施した評価で、APCが主要な既存液冷ソリューションと比べて計算処理当たりの電力効率を約15%向上させたと主張した。制御ソフトウェアを組み合わせれば、同一電力条件でAIワークロードのトークン生成量を最大35%増やせるともしている。
同社は冷却装置に加え、データセンター運用プラットフォームも提供する。製品には、サーバーラック、冷却分配装置、各種センサー、リアルタイム監視ソフトウェアが含まれるという。
共同創業者のマテオ・ブチは、「ソフトウェアが温度と圧力のデータをリアルタイムで分析し、無駄なエネルギー消費を抑える」と説明。「液体は空気よりはるかに優れた熱伝達媒体であり、相変化を利用することで熱除去効率を最大化できる」と述べた。
こうした技術が注目を集める背景には、AIデータセンターの電力需要の急増がある。業界推計では、米国のデータセンター電力消費は2030年代末に全米の電力使用量の9〜17%に達する可能性がある。足元でも、データセンターの電力消費の相当部分がAIプロセッサや高性能コンピューティングシステムの冷却に充てられている。
Fervetは、電力需要を抑えつつ水を一切使わない構造によって、電力や冷却資源が不足する地域でも新規施設の建設余地が広がるとみている。太陽光資源は豊富でも水が乏しいアフリカや中東、米国の一部地域で活用の可能性があるとした。
現在は、暗号資産マイニング企業のCleanSpark、AI半導体企業のFuriosaAI、データセンター運営会社のSwitchなどと技術検証を進めている。NVIDIAのスタートアップ支援プログラム「Inception」にも参加しているという。
AIモデルの大規模化が進む中、データセンターでは演算性能だけでなく冷却効率も競争力を左右する要素になっている。Fervetの技術が実運用の現場でどこまで電力・冷却の課題を解消できるかが、今後の焦点となりそうだ。