人工知能(AI)向けインフラの拡大に伴うメモリ半導体の供給逼迫が、新たなインフレ圧力となり、Bitcoin市場にも短期的な逆風となる可能性が浮上している。
16日(現地時間)、暗号資産メディアのCoinPostによると、Binance Researchは最近公表したリポートで、エネルギーや食料品に続く構造的なインフレ要因として、メモリ半導体を挙げた。
リポートでは、米国とイランの和平合意を受けてエネルギー価格上昇への懸念が一部後退する一方、市場が十分に織り込んでいない別の物価押し上げ要因が残っていると指摘。その中心にあるのが、AIインフラ拡大に伴うメモリ需要の急増だとした。
Binance Researchによれば、AIデータセンターでは高帯域幅メモリ(HBM)やサーバー向けDRAM、エンタープライズSSDといった高性能メモリに需要が集中している。これに対し、スマートフォンやPCなど民生機器向けのメモリ供給は相対的に細っているという。Binance Researchは、AIインフラの拡大がHBM、サーバー向けDRAM、エンタープライズSSDへの需要比率を継続的に押し上げていると説明した。
問題は、供給能力の増強が需要の伸びに追いついていない点だ。業界が2027年までに生産能力を約30%拡大しても、供給逼迫は解消しないとの見通しを示した。
具体的には、PC向けメモリで約15%、数量ベースで5800万個規模の不足が生じると予測。スマートフォン向けでも約12%、1億3400万個が不足すると見積もった。とりわけDRAM市場では、2026年に約17%、2027年にも約15%の供給不足が続くと予想した。NANDフラッシュについても、2028年まで需給の不均衡が続く可能性があるとした。
背景には、メモリ工場の増設を短期間で進めにくい産業構造がある。新たな生産ラインは、建設から装置導入、認証、量産立ち上げまで通常2年以上を要するという。
一方で、Binance Researchは、メモリ供給逼迫が消費者物価指数(CPI)を直接大きく押し上げる可能性は高くないとみている。家電製品が個人消費に占める比率が限定的なためだ。メモリ価格上昇によるCPIへの影響は0.10ポイント程度にとどまると推定した。
ただ、企業への影響は小さくない。クラウドサービス費用の上昇、電子機器価格の引き上げ、製品仕様の見直し、買い替えサイクルの長期化などを通じて、コスト負担が顕在化する可能性があるとした。こうした供給制約は、金融政策にも波及し得ると指摘している。
エネルギー、食料品、半導体で供給不足が同時に進めば、インフレ圧力が想定以上に長引き、その結果、米連邦準備制度理事会(Fed)の利下げ開始時期が後ずれする可能性があるという。リポートは「利下げの遅れや追加引き締めの可能性は、Bitcoinのように流動性に左右されやすい資産にとって短期的な逆風になり得る」と分析した。
その一方で、長期的には異なる見方も示した。供給制約を背景とする構造的インフレが続けば、法定通貨の購買力が低下し、Bitcoinや金のような希少資産の投資妙味が高まる可能性があるという。Binance Researchは「短期的には金利見通しの重荷となり得るが、長期的にはデジタル資産へのヘッジ需要を刺激する可能性がある」と説明した。
もっとも、市場では逆方向のシグナルも出ている。JPモルガンは最近のリポートで、Bitcoinと金を活用した「通貨価値下落ヘッジ取引」への需要が鈍っていると分析した。実際、Bitcoinと金に関連する投資商品では、足元で資金流出が確認されているという。
このためBitcoin市場では、供給起点のインフレがどの程度長期化するのか、またそれがFedの金利見通しにどこまで影響するのかが重要な焦点となっている。メモリ半導体の供給逼迫は、テック業界のコスト構造にとどまらず、暗号資産市場の流動性環境にも波及する可能性がある。