ロボット向けAIを開発するShiftが、無料の清掃サービスと引き換えに家庭内の家事動画を収集する取り組みを始めた。米ITメディアThe Vergeによると、同社は29日(現地時間)、米ニューヨークで自宅を無料で清掃する代わりに、清掃作業の全工程を撮影し、学習用データとして収集すると明らかにした。
同社は今後、ニューヨークに続いてロンドンなど他都市にも展開を広げる計画だ。対象とするのは、食器洗い、調理台の拭き掃除、ほこり取り、床のモップがけといった日常的な家事作業。収集した映像は、人が任せたい家事をロボットにこなさせるための学習に活用する。
こうしたデータが必要とされる背景には、ロボットがチャットボットや画像生成AIと異なり、現実の物理空間で動作しなければならない事情がある。空間認識や動作制御に加え、力加減や摩擦、物体の形状や材質の違い、照明条件の変化にも対応する必要があるためだ。そのため、衣類をたたむ、リンゴをつかむ、水を注ぐといった人間には簡単な動作でも、ロボットに再現させるのは難しいという。
一方で、現実世界のデータはテキストや画像のようにインターネット上から大量に集めることが難しい。低コストで大規模に収集する手法も限られている。高品質なデータへのアクセスは、フィジカルAI企業にとって大きな制約となっており、各社は取得手法の多様化を進めている。
インドでは、ホームサービスプラットフォームのProntoが、顧客宅での料理や清掃、洗濯などの作業映像をAI学習向けデータとして収集していたことが議論を呼んだ。Prontoは、利用者が明示的に同意した場合に限って撮影していると説明した。一方、競合するスタートアップの一部は、家庭内で撮影した映像でAIを学習させたことはなく、今後もその予定はないと明言している。
データ収集の裾野を広げる動きも出ている。シリコンバレーのHuman Archiveは、ギグワーカーにカメラ付きの帽子を着用させ、作業中の映像を記録する方式を進めている。こうした装着者の視点による一人称データは、ロボットが人間の移動や作業のしかたを学ぶうえで重要な資料とされる。Shiftもアプリを通じて参加者を募集しており、15カ国で数万人に活動動画の撮影費用を支払ったとしている。
実際の業務ではなく、同じ動作を繰り返させて学習データを作る企業もある。タオルをたたむ、カップを持ち上げる、箱を運ぶといった動きを繰り返し、カメラやセンサーで細かな挙動を記録する手法だ。すでに市場投入されたロボット製品からもデータは継続的に蓄積されており、企業は顧客宅で得たデータを製品改善に生かすほか、ロボットが停止した際に遠隔の作業者が介入して生じたデータも再利用している。
データと便益を引き換えにするモデル自体は珍しくない。ただ足元では、企業が対価を払ってでも確保しようとしているのが、家事のような現実世界の行動データだ。まずは人が無料で清掃しながら映像を集め、将来的にはそのデータを基に家事ロボットの販売につなげるモデルが広がりつつある。