文学界で問われるAI利用への対応。写真=Shutterstock

英連邦短編小説賞(Annual Commonwealth Short Story Prize)の受賞作を巡り、AIが執筆したのではないかとの疑念が広がっている。確定的な判定手段が乏しい中、文学賞の審査や文芸誌の掲載判断が事実上「信頼」に依存している実態も浮き彫りになった。

米The Vergeが5月22日(現地時間)に報じたところによると、英文芸誌Grantaが公開したジャミル・ナジルの短編「The Serpent in the Grove」について、大規模言語モデル(LLM)が生成したような文体だとする指摘が出ている。

最初に疑問を投げかけた一人が、ジョージ・メイソン大学メルカトゥス・センターでAIの客員研究者を務めたナビル・S・クレシだ。作品の冒頭2文を読んだ時点で、強い違和感を覚えたという。

クレシは、AIが生成した文章には説明しにくい独特のリズムがあると指摘。今回の作品については、AIが推敲を補助した水準ではなく、AIそのものが書いた文章に近く感じられると語った。ただ、断定はできないともしている。

問題は、疑念が生じてもそれを裏付ける明確な手段がないことだ。英連邦財団の事務総長ラズミ・ファルークは、応募者には未発表のオリジナル作品であることを確認しており、最終候補者も草稿作成にAIを使っていないと自ら申告したと説明した。

その上でファルークは、信頼できる検知ツールや手続きが整うまでは、財団や文学賞の運営は信頼を前提にせざるを得ないとの認識を示した。

Grantaの対応も議論を呼んでいる。発行人のジグリッド・ラウジングは、問題の作品をAnthropicのClaudeに入力し、AI生成かどうかを尋ねたところ、「人間の関与なしに作成された可能性はほぼない」との趣旨の回答を得たと明らかにした。

ただ、ClaudeはAI検知専用ツールではなく、LLMベースのチャットボットにすぎない。ラウジングは、審査員がAIによる盗用作品に賞を与えた可能性もあるが、現時点では分からず、最後まで判明しないかもしれないと述べている。

出版の現場でも混乱は続いている。実在しない著者名でAI生成の文章が掲載される事例が増えており、3月にはミア・バラードのホラー小説「Shy Girl」が、AI利用疑惑を理由に出版中止となった。

バラードは疑惑を否定し、責任は外部編集者にあると主張した。一方、ナジルについても実在する人物なのか疑問視する声が出たが、過去の受賞者であるケビン・ジャラード・ホセインが実在を確認したという。

作家が創作過程でどこまでAIを使ってよいのかという線引きも、なお曖昧だ。オルガ・トカルチュクは最近のイベントで創作にAIを活用していると語った一方、次回作をAIで書いたわけではないと説明。資料整理やファクトチェックの効率化に限って使い、得た情報は自ら検証しているとしている。

検知ツールの限界も改めて浮かんだ。Pangramはナジルの作品を「100% AI生成」と判定し、2026年の英連邦短編小説賞の受賞作2作品と2025年の受賞作1作品についても、AIが執筆した可能性があると判断した。

その一方で、別の人間の原稿については「100% 人間が作成」と分類した。文学界では、AIの文章と人間の文章を明確に見分ける手段が定まらないまま、議論だけが先行している。

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