中国のAI業界で、大規模言語モデル(LLM)の競争力を巡る危機感が強まっている。公開ベンチマークでは米国勢との差が縮まったように見える一方、技術革新の面ではなお後れを取っているとの見方が広がる。こうした中、一部企業はテキスト中心のLLMからAI動画生成へと軸足を移し、新たな成長機会を探っている。
香港紙サウスチャイナ・モーニング・ポスト(SCMP)が22日付で報じたところによると、Tencentの生成AI基盤モデル組織「Hunyuan」を率いたリウ・ウェイ氏は、中国AI業界の最大の課題について「パラダイム革新の欠如」だと指摘した。中国企業は、DeepSeekや米企業が打ち出した中核技術を追う段階にとどまっているとの認識を示した。
リウ氏は、公開ベンチマークの数値と実際の技術力は必ずしも一致しないと強調した。中国のモデルはベンチマーク上では米企業に近い成績を示していても、実用面や技術革新のスピードではなお差があるという。米企業が新たな技術の方向性を提示し続ける一方、中国の有力企業はそれを素早く追いかけることに力を注いでいると説明した。
米中のAI技術格差については、少なくとも3カ月あると評価し、年内には6カ月まで広がる可能性があるとした。OpenAIの次世代モデル「GPT-5.6」の投入可能性にも触れ、米国が再び技術の最前線を押し広げるとの見通しも示した。
そのうえで、「中国企業は中核技術の面で米企業を複製している」「パラダイム革新の力を失えば、最終的には別の企業が市場を塗り替える」と警鐘を鳴らした。AI競争を勝ち抜くには、単なる追随ではなく、自ら新たな技術の方向性を示す必要があると訴えた。
こうした問題意識から、リウ氏はLLM競争ではなくAI動画生成分野に活路を求めた。共同創業者らとスタートアップ「Video Reverse」を設立し、本社をシンガポールに置いたうえで、中核となる研究開発人員は香港に配置した。
同社はこのほど、企業やセミプロ向けのAI動画エンジン「Bach」を公開した。調達額は累計8000万ドル(約120億円)で、追加調達も進めているという。リウ氏は、動画生成は中国が相対的に競争力を維持している分野だと評価している。
実際、ByteDanceの「SeaDance」やKuaishouの「Kling」など、中国勢のAI動画モデルは世界的にも高い評価を得ている。第三者分析会社Artificial Analysisによると、上位のAI動画モデルの多くを中国企業の製品が占めた。Bachも公開直後に世界ランキングの上位に入った。
動画生成分野に注目が集まる背景には、計算資源の制約もある。米国の半導体輸出規制により、中国企業は最先端AIチップの確保で制約を受けている。一方で、動画生成モデルは最先端のLLMほど大規模なパラメータを必要とせず、比較的限られた計算資源でも開発しやすいという。
リウ氏は、こうした点が中国企業にとって商機になり得るとみている。米企業が現在LLM競争に注力しているため、動画生成では相対的に開発ペースが鈍っていると分析した。OpenAIの動画生成アプリ「Sora」を巡る動きも、その流れの一端だと位置付けた。
Video Reverseは今後、動画生成モデルにとどまらず、現実世界をリアルタイムでシミュレーションする「World Model」の開発にも取り組む方針だ。現在、次世代AI動画モデル「Bach 2.0」と、シミュレーション向けモデル「Olympus」を開発している。
今回の動きは、中国AI業界が米国の追随一辺倒から脱し、新たな競争領域を模索していることを示している。AI動画生成が中国企業にとって比較優位を持ちやすい主戦場として浮上するなか、世界のAI競争はテキスト中心のLLMから、マルチモーダルや動画生成へと広がる可能性が高まっている。